消したり、追加したり。自分の線に直して切る。切り絵の新しい遠近法。
切り絵といえば、下絵の図案を切り抜いてその陰影のシルエットを楽しむものだ。その性格上、何が表されているのか具体的にわかる図案が多い。しかし宮﨑寿さんの切り絵はそのような切り絵とは一線を画す。青や黒で切り出された線と形はくねくねとうねったり、一部分だけ突如顔のような形が浮かんだり。線と形で画面上に新たな遠近法をうみだしていく。3Dソフトを使ったグラフィックのようにも見える。
宮﨑さんは、支援員の人から切り絵の教本の図案を白黒にコピーした紙を何枚か受け取る。その中から好きな図案を選んで黒や青など色画用紙の上にその図案の紙をホッチキスでとめる。図案の黒く描かれた輪郭ではなく、白い部分をカッターで切り抜いていく。ここまでは普通だが、宮﨑さん独自の手法はここから始まる。あらかじめ教本の図案に描かれていた線を修正液で消しては、そこになかった新たな線を幾つも追加して切り取っていく。線が増えて、どんどん細かくなっていく。できた切り絵はもともとの教本の図案とは全く異なる形になる。
宮﨑さんは、2007年ごろから今のような独自の手法で切り絵を始めた。
2010年には、アート活動支援室〈ぴかり〉が公募展に宮﨑さんの作品を出展する際に、担当者がタイトルを「うねり」、「静」などと付けていたが、現在は絵を見て宮﨑さんが「たけのこ」、「きもの」などと命名している。
腕時計を見て、時間通りに行動する宮﨑さん。以前は、木工作業のあとの15時30分から17時までと毎日決まった場所で決まった時間に創作していた。今年の4月からは、新生活が始まる。木工作業がなくなり、午前中は散歩、午後は新たな場所で切り絵や音楽などの活動をすることに。
どんどん細かく複雑な切り絵を作り上げていく宮﨑さんは、書店で地図帳を買うのが好き。宮﨑さんは地図を眺めながら、どのような線や形を地球上に広がる海、山川、大地に見ているのだろうか。彼の遠近法のバリエーションは、とどまるところを知らない。