Q. 障害のある作家の作品は、完成したあとはどうなるのでしょうか?
A. 完成した作品の行く先は、その作家が所属している福祉施設、もしくはご家族の意向によってさまざまなんですね。たとえば、作品を管理されるのがご両親の場合は、「子どもが描いた宝物だから売りたくない」という人もいれば、「この子の将来のために作家として収入を得られるようになるなら積極的に売りたい」という人もいます。また、現代アートのマーケットで評価されて、適正価格で取引されるようになることを目指し活動している施設もあれば、売らないで保存やアーカイブに取り組まれている施設もあります。私たちがこれまで一緒に仕事をしてきた福祉施設や障害のある人のなかで、作品を売りたくないという声もあったので、オリジナルを売らずにどうしたら障害のある方たちの表現活動(アート)を仕事にできるだろうか、という出発点から、2007年に「エイブルアート・カンパニー」01という新たな組織を立ち上げました。ここでは、作品をデータベース化してウェブサイトで公開し、企業やデザイナーなどに広告や商品のデザインとして使ってもらうことで著作権使用を促す、いわば芸能事務所のようなアーティスト・マネージメントの役割を担っています。 個人の障害のある方やご家族、日々忙しい福祉施設の職員が、大きな企業とロイヤリティなどの契約書のやりとりを行うというのは、なかなかハードルの高いことなんですね。なので、その間を取り持って、企業への企画提案から、発注を受けて契約書のやりとりや使用料の支払いまでを行っています。今年で11年目になりますが、現在〈たんぽぽの家〉以外の作家もすべて含めて113名の登録作家がいらっしゃいます。[森下]
Q. 障害のある方たちの作品自体を実際に購入するには、どんな方法があるのでしょうか? どこかの展覧会で観ましたと言って、直接施設に電話をしてもいいものですか?
A. 2013年に東京オリンピックの開催が決定して以降、これが追い風となって障害のある作家を紹介する展覧会はグンと増えてきました。人目に触れる機会が増えてきたことで、これまで気づかなかった人たちが気づいてくれて、興味を持ってくれるようになってきていると感じます。一般的に、作品を購入できるのは、コマーシャルギャラリーでの展覧会になりますが、障害のある作家たちの展覧会をコマーシャルギャラリーで開催する機会は、今のところそう多くはないんです。いわゆるレンタルギャラリーや美術館などで作品を観て気に入ったとしても、すぐには購入はできないことがほとんどだと思います。 〈たんぽぽの家〉においては、電話やメールで問い合わせをいただくことは大歓迎ですが、実際に直接「買えますか?」とお問い合わせいただくことはめったにありません。熱心なアートコレクターでもないと、「施設に電話してまで……」と、躊躇してしまうのではないかなと思います。 価格表を作ったり、額装を手がけるなど、作品を販売できる体制が整っている施設もある一方で、販売経験のない施設だと、連絡をもらってもどうしていいかわからず対応ができない、という場合もあるでしょう。作家や家族と売るか売らないかの話し合いから、値段を幾らにするかまで、たくさん決めなければならないことがありますから、実際に販売するまでにも時間がかかるだろうと思います。そうした意味でも、アート活動を行う作家や施設すべてに作品を「売る」準備が整っているわけではない、というのが現状なんです。ただ、個人的には作家自身やご親族が前向きなら、福祉施設側でももう少し作品自体が販売しやすくなる環境が作れていけたらいいのになと思っています。[岡部]
Q. 実際に作品が売れた場合、そのお金は作家さんにどれくらい入るのでしょうか?
A. これも施設によってまちまちだと思います。〈たんぽぽの家〉では、入ってきた金額の3割を作家本人に、残りの7割を利用者全員の基本給や時給の中に組み込んでいます。〈たんぽぽの家〉は、就労支援施設の枠組みでアート活動を行っているのですが、来るのが週に1日でも5日でも同じくもらえる基本給があって、そこに働いた時間でプラスされる時間給があります。さらに、作品が売れたらその3割が手当てになるという仕組みです。〈たんぽぽの家〉では、絵を描いている人もそうでない人もいて、一緒に表現が生み出される空間を作っているという考えの元、絵に対する対価も一部は本人に、あとはみんなで分配するという方法をとっていますが、このやり方はちょっと特殊かもしれません。[森下]
Q. 知的障害のある作家にとって、作品が売れることは喜びになるのでしょうか?
A. 私たちが〈たんぽぽの家〉で日々たくさんの作家さんたちと接している中で感じるのは、重度の障害のある人で、たとえ100円と1000円の差は理解できなかったとしても、お金というものはとても大事で、もらえると嬉しいという気持ちを持っているということなんです。お給料日には、昔ながらのスタイルでみんなに手渡しするんですが、みんなすごく喜んでくれます。お金に価値があるということはわかっている。だからこそ、作品が売れると、周りもみんな「よかったね!」と讃えるし、本人もそれを自覚して嬉しそうです。障害のある・ないにかかわらず、自分が表現したものを、お金を支払うことで評価してくれたことは、思いとして伝わるものなんだと思います。 けれど、福祉関係者の中には、彼らがお金を稼ぐことに抵抗感を持つ人たちも少なくありません。その気持ちもわからなくはないのですが、お金をネガティブに捉えることよりも、これからは得たお金をどう使うか、というところまで寄り添うことの方が大切だと感じます。普段行けないようなところへ行くとか、大好きなお友だちと美味しいものを食べに行くとか。お金の使い方がわからない人には、お金を得ることと楽しく豊かに過ごすことが結びつくように見守るのも、福祉職員や支援員の役割かと思います。実際、〈たんぽぽの家〉に所属する山野将志さんは、オリジナルの原画が売れる作家ですけど、作品が売れたらスタッフとご飯を食べにいったり、地域のアートのワークショップに参加するようになったりと、日々の生活を楽しんでいます。[岡部]
Q. 買いたい人と作家とが、よりよい関係を作っていくには、これからどんなことが必要だと思いますか?
A. 私自身は、オリジナルを販売することも、デザインとして使用することも、その人の軌跡を社会に残すことができるという意味において、作家にとって両方いいことだと思っているんです。 これから、売ること・買うことがもう少し身近な行為になっていくには、福祉施設の人たちも「アートのことはわからない」と専門家に任せるだけではなくて、彼らのアートが生まれる現場にいるからこそ、自分たちでももっと評価していくべきだと思います。美術の専門家が評価するものだけが“いい作品”なのではなく、いろんな立場の人が自分の感性、自分の物差しで評価できるようになることも大切で、専門的な美術の世界と、個々の物差し、その両軸があれば、私たちとアートの関係性はもっと豊かになっていくのではないでしょうか。その上で、アートフェアだけではない売り方・買い方を開拓していけたらいいですよね。福祉の界隈ではまだ未経験なことが多い分、どうしても「アートフェアで、あの作家の作品が高く売れた」というような話を聞くと、気後れしてしまって遠い世界のように感じてしまうようですけど、一足飛びにそこにたどり着かなくても、きっと他にもいろんな方法があります。もっと自由に、アートを買う楽しみが広がりを持てるようになるといいなと思います。[森下]