得意分野で、ちゃんと売れるものを
ここ〈YELLOW〉、以前は地元の名産、泉州タオルの工場だったそうだが、現在は10名ほどの障害のある人たちが主に絵を描くアーティストとして通い、創作活動に取り組んでいる。おじゃましたこの日は6名の作家がみな黙々と机に向かって集中していた(作家のひとり、上田匡志さんだけは煮詰まっているのか? ときおりブラブラしていたが)。代表の日垣雄一さんに〈YELLOW〉をスタートさせた経緯からお聞きしよう。
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こちらは平野喜靖さんの作品。新聞などから気になる形の文字をコツコツと抜き出す。
「〈YELLOW〉以前にも別の福祉施設で働いていたんですが、そこでは障害者が実際に売れるかどうか、よく分からないものを必死で作り続けているわけです。お客さんも障害者がかわいそうやから商品を買う、みたいな空気もあって。そこに違和感があり葛藤していたんです。そんなときに〈アトリエ インカーブ〉01さんを見学させてもらったことが〈YELLOW〉を始める大きなきっかけになりました。(YELLOW所属のアーティスト)平野(喜靖)とは前の施設で一緒だったのですが、彼はそれまであきらかにいやいや軽作業をしていたし、なにより絵は彼の得意分野だったんです。なので、これは障害者の個性を生かしつつ、ちゃんと売れるものが作れるんじゃないかと。それで2009年にこのアトリエをスタートさせました」。
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好きな乗り物などを描く上田匡志さんの作品。これら作品は直接〈YELLOW〉に連絡し購入することも可能だ。
絵と仕事、どちらを選択してもいい
お話をうかがいながら彼らの過去の作品ファイルを拝見させてもらう。失礼ながら、もうお話そっちのけでその量と熱量にクラクラきてしまった。「具体的なアドバイスはしない」からなのか、これぞ十人十色。一人ひとりがここでどんな態度でキャンバスと対峙しているか、が想像できるとともに、モチーフの変遷やシリーズ作品など一過性の余暇活動では成し得ないものだということが見えてくる。つまり年月をかけたストーリーは作家の人生そのものだ。〈YELLOW〉は、福祉施設としての種類は就労継続B型支援事業所02。このストーリーはB型だからこその賜物らしいのだが。
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泉佐野の妖精? ミルカさんは緻密な鳥をとっても優雅に描いていた。
「就労移行支援の施設は、基本的には2年で社会に出ていかないといけない、そういうシステムですよね。ですが〈YELLOW〉は、そのB型の形態をとっているので、継続して就労に向けての取り組みができます。アトリエ活動は、複数ある就労プログラムの中の一つという位置付けなので、「絵が描きたい人」も「仕事がしたい人」も〈YELLOW〉が利用できて、どちらを選択してもいい。はじめは絵を描いていたけど、仕事をしてみたら就労への意識が高まって社会に出て行くという人もいますし、みんな自由でバラバラです。ここの2階で行っている軽作業や(提携先の)〈グリーンファーム〉で野菜の検品などの仕事もあるので、どこでどれだけ仕事をするかについても本人の意志のもとに相談して決めています」。
まずは絵を見てもらってナンボ
〈YELLOW〉には、日垣さんいわく「ぼくらが知らない世界に橋渡ししてくれる」大阪のアートプロジェクト〈カペイシャス〉を通じ、ベルギーや台湾などのアートフェスに出展した作家も在籍。もちろん大阪市内で個展なども開催している。とにかく完成した作品を「どんどん紹介していくことが大切」だと考えているという。日垣さんの、社会への接点としてアートの世界がもつポテンシャルにかける思いは強い。ユルくない。
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全身全霊で創作に打ち込む有田京子さん。昨年、大阪府知事賞を受賞!
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「あけましておめでとうございます!」と元気に挨拶してくれた黒瀬貴成さん。
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こちらはおっぱいバッチ。作品はグッズとして販売も。ギターのピックなどもある。
「どこに可能性があるのか分からないですよね。ぼくはアウトサイダー・アート03のようなものをちゃんと勉強したことがないんで分からないんですけど、そういうものを利用してでも、まずは絵を見てもらってナンボやと思っています。アール・ブリュット04でもエイブル・アート05でも必要としてもらえるなら出て行きますし、最終的にみんなのお給料につながっていけばいい。売り上げは施設に10%で、あとは作家の方にいきます。作品が認められてお金に変わることは本人たちも幸せに感じるようで。最近は絵の売り上げが増えてきてるのでありがたいです」。
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〈YELLOW〉のスタッフ日垣雄一さんと水野浩世さん。水野さんいわく、ここでは余裕を持って働けるそう。
もうひとりのスタッフ水野浩世さんは、売り上げはあくまで結果として付いてくるものだと語る。
「もちろん作品は売れた方がいいんですけど、制作する工程そのものを障害のある人の喜びにしていきたいという思いもあって。そういう環境で生まれたものが良い作品となって売れている、ということだと思いますね」。
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穴瀬生司さんは絵を描いたり、電子基板を取り付けた木を削っていた。終始スマイリー。
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作業に集中できないのか、ときおりアトリエをぶらついていた上田匡志さん。
継続することが一番
話しかけるのがためらわれるほどに、みんな夢中で制作に挑む様子を見ていると、ここがそれぞれの確固たる居場所となっていることがうかがえる。〈YELLOW〉はあくまで就労移行へのステップとしての施設ではあるけれど、すでにここでの時間は個々が安心して感性を発揮できる、クリエイティブな“ビジネス”時間のようでもある。そして定時になると当たり前だがアーティストそれぞれが帰り支度を始めたのだけれど、その姿はプロフェッショナルの毎日の営みのように見えて、なんともたくましく感じたのだった。
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「継続すること、それを一番に考えています。だからスタッフも含めて余裕をもって仕事をするというのがポリシーなんです。目を血走らせて働いても長く続かない。もしぼくが彼らと同じ立場だったら無理にキツい作業所とかに通うのはイヤやなぁと思うんです。だからキャッチコピーは“わらいあり、いびきあり、たまに手ぬきあり”なんです。福祉施設がアトリエ活動を行うこと自体、地域の中でなかなか理解してもらえない部分もありますけど、選択肢の一つとしてこういうユルい施設があってもいいかなと考えてるんです」。
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Information
YELLOW
大阪府泉佐野市りんくう往来南5-25
TEL : 072-462-8811
YELLOW ウェブページ
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