何だろう? 面白そうからはじまるコミュニケーション
「障害のある人も含めて、一つの社会。障害者を理解してほしい。一括りで扱われる障害者作品ではなく、言葉のイメージを『何だろう?』『面白そう』というものに変えていきたいというところから、〈unico〉という名前になりました」。そう話すのは、〈unico〉の活動を発表する場の一つである、はじまりの美術館の館長・岡部兼芳 さんだ。「障害者が作ったもの」という枕詞はもう要らない。個性的で素敵な作品と出会い、作者がたまたま障害のある方だった。そういう見方を社会に広げていきたい。そんな思いのもと、〈unico〉は生まれた。
〈unico〉は、社会福祉法人 安積愛育園(以下、安積愛育園)に所属する、もしくはしていた障害のあるメンバーの創作活動を支援するプロジェクトである。現在は約50名のメンバーが作家として参加。安積愛育園は、1967年に知的障害児施設として、ここ福島県郡山市で始まった。これまで各ライフステージに応じた「一人ひとりが望む生活と自己実現に向けた支援」を基本理念として、入所・通所施設のみならず、居宅支援、相談支援など、知的障害、身体障害、発達障害等、子どもの就学前の療育から、成人後の地域生活や日中活動に至るまでのサービスを幅広く展開している。
それぞれにピタッとはまる創作との付き合い方を見つける場として
〈unico〉の創作活動を行い、地域に開けた場としての役割を大きく担っているのは、通所施設である地域生活サポートセンター〈パッソ〉(以下、パッソ)だ。太陽の光が差し込む3階建のスペースに足を踏み入れると、壁、階段といたるところに利用する人々の作品が飾られている。スーツにネクタイ姿のお父さんに憧れ、会社に来るように背広を着て〈パッソ〉に通い、部長席に腰掛け作品を生み出している伊藤峰尾さんは、自分の名前が書けるようにと練習したことをきっかけに描くことをはじめたという。模様のように自分の名前を描くその作品は、パリで開催されたアール・ブリュットの展覧会にも出展された。足を使って絵画や造形作品を生み出す森陽香さんや、数字のコラージュ作品を作る堀田和男さん、文字をカラフルに重ねて絵にしていく三瓶沙弥香さんなどの作品はすべてここで生み出されたものだ。
2階にある作業室が、みんなのアトリエ代わりだ。その人に合ったやり方で描きたいものを休憩しながら描く、という自由なスタイルが〈パッソ〉のやり方。絵を描く人もいれば、のんびり過ごす人もいる。焼き物をやりたい人は、陶芸教室に行くことも。「創作をやりたいという人もいますし、そうじゃない人もいるので、家で経験するのが難しい余暇活動や趣味活動を、私たちと同じように広げたり、利用者さんの1日1日が楽しくすごせるようにお手伝いをしています。今後は創作エリアと活動エリアを分け、より集中して創作活動に取り組める環境を提供していけたら」と職員の佐藤雅俊さんは言う。
重度の障害と区分される利用者が多い、地域生活サポートセンター〈パッソ あゆみの家〉でも、日常生活の支援と合わせて、一人ひとりの利用者に寄り添う文化活動を行っている。共同作業をする部屋とは異なる静かな多目的ルームには、「行くわよ!」と時折声をかけながら黙々と刺繍を縫っている女性の姿が。〈unico〉の作家の一人で、刺し子や貼り絵を得意とする、松崎妙子さんだ。糸と針を上手に使いこなし、料理上手で絵を描くことも好きだという。職員の宗像千代子さんは言う。「糸のヨレ具合や細かい表現は彼女にしかできないですよね。糸も最初に生地の長さに合わせて測ってカットするので、一切無駄なく縫うんです」。
もっと利用者が楽しめる活動を考えることが今につながった
20年前に開設した安積愛育園の入所施設〈あさかあすなろ荘〉でも、〈でこぼ工房〉と呼ばれるアトリエ兼作業所で創作活動が行われる。絵画の作成や、さをり織りなども取り組んでいる。「いろんな課題や素材を提供するなかで、その人それぞれがはまって行くものを探していきます」と安積愛育園のシニアマネージャー・品川寿仁さんは話す。アトリエで目を見張ったのは、橋本吉幸さんがひらがなやアルファベットの本をもとに下絵を描き、藤井真希子さんが独特の色彩で刺繍を施したコースターができるまでのスピードだ。手先の器用な二人のハイペースっぷりには、最終的な仕上げを施す職員もついていくのが大変だとか。ひらがなやアルファベットの本を使うというアイデアも、指示を待たなくても次々とこなせる課題としていいのでは、という現場の声から始まったものだそう。
「現場の職員が『こんなことをやれたら利用者さんが楽しそうだよね』ということを形にしてきたら、残った柱が、アート、スポーツ、音楽だったんです。その活動を通して、携わるスタッフも、普段見られない利用者さんの違った姿に出会う機会があった。障害に関わらず、人として表現したり、輝ける場所にしようと各事業所でできることを持ち寄ったのが、〈unico〉というプロジェクトであり、ブランドなんです」
でも、〈unico〉が立ち上がるまでの道のりは、平坦ではなかった。同じ志を持った職員たちの努力がプロジェクトとして実るまでは、10年はかかっているという。品川さんは続ける。「〈unico〉やはじまりの美術館の活動を通して、利用者さんが『作家』になる。支援者としてのキャリアが長いほど、利用者さんを『支援が必要な人』として見がちだったりしますが、そんな職員の視点をガラリと変えてくれるのです。〈unico〉はそういう感覚を与えてくれる、我々職員にとっても魅力的な場所なんです」。
現在、各事業所で作品が生み出された背景を知っているスタッフが、はじまりの美術館とともに話し合いながら、伝えたい、残したい作品を「全国の作品調査に向けたアール・ブリュット美術館におけるアーカイブ構築」の一環としてアーカイブ化している。スタッフの作品解説文が書かれたポストカード「unico collection 50」や作品をアレンジしたアクセサリーやグッズも、〈unico〉ブランドとして、はじまりの美術館や市内の雑貨店で販売している。利用者にとってプラスになることは、町と組織と連携を取りながらどんどん進めていく。新しい表現の作品や作家と出会うことができる〈unico〉を媒介にして、いま東北から新しい日本が始まっている。
Information
unico(ウーニコ)
社会福祉法人 安積愛育園 地域生活サポートセンター パッソ
福島県郡山市安積町笹川字四角坦54-3
TEL : 024-937-0201
unico ウェブページ