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(カテゴリー)アーティスト

田湯加那子

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【メインイメージ写真】北海道白老(しらおい)町で創作活動を行う田湯加那子さんが、机に積み重ねられたスケッチブックの上で絵を描く手元のアップ

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田湯加那子

Cultivating The Arts “生きるための技術”をさがして(北海道①)

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(更新日)2024年07月05日

(この記事について)

「THE ARTS」を“生きるための技術”ととらえ、表現が生まれる全国各地の現場を、福祉や創作活動に携わる案内人とともにめぐる企画「Cultivating The Arts」。今回は、北海道で障害のある人の豊かな創造性と表現の活動を見つめ続ける、社会福祉法人ゆうゆうの大友恵理さんを迎え、3名の作家のもとを訪問した。まずは、北海道白老(しらおい)町の自宅兼アトリエで創作活動を行う田湯加那子(たゆかなこ)さんから。

本文

プロローグ:創作を生きる力に

北海道で障害のある人の芸術活動を推進する「北海道アールブリュットネットワーク協議会」や、東北も含む広域支援センター「アールブリュット推進センターGently」の事務局を担うのが、当別(とうべつ)町にある社会福祉法人ゆうゆう。大友恵理さんは、その担当者として道内に住むさまざまな作家や支援者と連携してきた。

「特に作家さんたちとは、展覧会やイベントなどで作品を出してもらったり、作品紹介をしたりするなかで、関係性が築かれていきました」と大友さんは語る。

現代美術のキュレーターだった大友さんは、2019年に北海道立帯広美術館で開催された「北海道のアール・ブリュット こころとこころの交差点」展をきっかけに障害のある人のアートと関わるようになった。全道規模では初となる展覧会のディレクションを担当した。それから、ゆうゆうの職員として、アール・ブリュットの世界に深く分け入っていく。

さまざまな作品に触れるなかで、大友さんは、「作家は、創作を生きる力に変えている」と感じているという。大友さんの案内で、そんな表現活動に取り組む人たちに会いにいく。


【写真】北海道白老町の風景。道の植え込みの木々に雪が積もっている。

溢れる「好き」、地域芸術祭の顔に

新千歳空港から南西に車で約1時間。うっすら雪の積もった山間の高速道路を降りると、太平洋岸の白老町に入る。

午後1時。海岸の住宅街にある、田湯加那子さんの自宅兼アトリエを訪ねた。田湯さんは、居間の隣にある和室で、机に向かって絵を描いていた。

【写真】自宅内のアトリエで、机に向かい絵を描く田湯さんの後ろ姿。机の上やまわりには、ノートやスケッチブックが積み重なり、壁には展覧会のポスターなどがびっしりと貼られている。

「いつも9時から17時のルーティンで描いているんですよ」と、大友さんが言う。

机の上には、7、8冊のスケッチブックが積み上げられている。一番上のものに、田湯さんは、彫刻刀で彫るような筆圧で、色鉛筆をぐいぐいと押しあて、格子状の模様を絵に加えていく。数分経つと、スケッチブックを入れ替え、同じように模様をリズミカルに刻む。

【写真】メインビジュアルと同じ写真。机に積み重ねられたスケッチブックの上で絵を描く田湯さんの手元
【写真】机上に色鉛筆が入った箱や缶ケースが並んでいる。田湯さんが作品制作に使っているもので、同系色ごとに分けて収納されている。

田湯さんが絵を描きはじめたのは、小学4年生の頃。アイドル歌手やアニメキャラクターなど、「自分の好き」を力強く、リズミカルなタッチで描いてきた。2005年の初個展以降、作品は高く評価され、2022から2023年にはスイスのローザンヌで開かれた「アール・ブリュットとマンガ」展にも参加している。

【写真】札幌市内での個展の展示風景。会場の白い壁には、色鮮やかな田湯加那子さんの作品が展示されている。

2024年1月9日から2月2日の会期で、札幌市内NAKAHARA DENKI Free Information Galleryで開催された、田湯加那子展「きらめき」。作品の変遷が紹介された

【写真】平置きされた作品の一部。衣料品のカタログ誌面に直接絵が上描きされているもの、厚紙や分厚いノートに描かれた絵などが並ぶ。
【写真】個展でも展示された、野菜をモチーフにしたカラフルな作品が、自宅の棚に飾られている様子。電話機や置き時計が、絵の押さえになるように手前に配置されている。

田湯さんはほぼ毎日絵と向き合う。ただ、それは本人にとって「作品づくり」ではないという。「生活の一部、加那子なりの普通を生きる術」と、側で伴走してきた母のひろみさんは表現する。 

【写真】短くなった色鉛筆が詰められた瓶が積み上げられている

積み上げてきたスケッチブックは、100冊以上。花や野菜など具体物をモチーフに、完結した絵を描く時期もあったが、近年は作風が抽象的に、「完成」のないかたちに。以前に描いた絵を黒く塗りつぶしたり、写真集やカタログに絵を描いたりすることもある。「描く感触そのものを楽しんでいるようです。それを作品と呼んでいいのか、正直、迷いもありました」とひろみさん。

迷いながらも出品した黒塗りのスケッチブックが、2019年度の「Art to You! 東北障がい者芸術全国公募展」で大賞に。2023年には、白老で開催された地域文化の芸術祭「ルーツ&アーツしらおい」に参加。18年ぶりとなる地元での展示が実現し、花の絵がメインビジュアルに選ばれた。

【絵】「ルーツ&アーツしらおい」のメインビジュアルに選ばれた花の絵を寄りで写した写真。手前に陽光が当たっている。

ひろみさんは、一線の現代作家とともに同芸術祭に参加したことで、「そこから加那子の創作活動の状況はフェーズが変わった」と語る。加那子さんは、会期中、夜中まで起きて机に向かっていたそうだ。「障害のあるなしではなく、今この地で表現し続けている作家として認めてくれたのは大きかった」とひろみさん。

田湯さんが、ひとりのアーティストとして羽ばたこうとしていた。

【写真】自室の机で黙々と絵を描く田湯さんの姿。机の脇には絵がクリップで留められたダンボールや、額装された作品、丸椅子の上にうずたかく積まれたスケッチブックがある。

関連人物

田湯加那子

(英語表記)TAYU Kanako

(田湯加那子さんのプロフィール)
1983年生まれ。北海道・白老町在住。小学4年生の頃、家族で訪れた東京ディズニーランドの思い出を大きな絵にしたことをきっかけに、身近な人物や好きなものを絵で表現するようになる

大友恵理

(英語表記)OTOMO Eri

(大友恵理さんのプロフィール)
社会福祉法人ゆうゆう芸術文化推進室学芸員。障害のある人の芸術文化活動の推進に従事し、展覧会やイベント、研修の企画運営などに携わる。
(大友恵理さんの関連サイト)