*本記事は「子どもたちと考えた、よりよく生きるための物語——イタリア・ミラノの絵本出版社、カルトゥージアの実践」「ともに笑い、怒り、語るために 「わたしの幻聴幻覚」プロジェクト」の2記事とあわせてご覧ください
聞くことに身を委ねる

まずは他者の声に耳を傾けることから。そう思ったなら、50年以上にわたって、各地の民話をその身ひとつで訪ね歩いた小野和子さんの著書をひらいてみよう。

小野和子さんが1969年から、東北の村々をひとりで訪ね歩いた民話採訪の記録。小野さんが手製本で制作した40冊の「民話採訪ノート」から8話をまとめたものを受け取った清水チナツさんが「本にしたい」と申し出たことから書籍化がはじまった。
想いや言葉を重ねる

「普通」にできないことに付き合いながら、生きていくにはどうしたらいいのか。互いの困難との付き合い方に学び、想いや言葉を重ね合う高校生2人の物語を見届けたい。

勉強もバイトも続かないヤンキーの小林大和と、変わり者の転校生・宇野啓介。正反対の2人が「普通」にできないことに悩み、壁にぶつかりながらも奮闘する。アフタヌーンWeb増刊「&sofa」にて連載中。
自分の身体で演じなおす

演じることは身体を通して、経験を語りなおすこと。問題児とされる子どもたちと、映画監督や撮影関係者との丁寧な協働から生み出された作品に宿る演技の力が、私たちに伝えるものとは?

北フランスを舞台に、演技未経験の問題児たち自身が主人公を演じた映画。役者の選定にあたっては、キャスティングディレクターや演技コーチとしての経歴をもつ監督らが、北フランスの学校、児童養護施設、地域センター、青少年更生施設などを1年かけてめぐり、公開オーディションを実施したという。第75回カンヌ国際映画祭(2022年)「ある視点」部門でグランプリを受賞。
他者の見ている風景をなぞる

他者が抱える障害や困難を症状として記録するのではなく、その人の目の前にある風景をなぞってみる。美術家の飯山由貴(いいやまゆき)さんと妹の千夏(ちか)さんが真夜中の住宅街を歩む軌跡に、その術が表れる。

「ともに笑い、怒り、語るために 「わたしの幻聴幻覚」プロジェクト」の記事で紹介した「この病気にならないと理解できないと思います。どうせ、他人事でございましょう」展の展示設計・企画アドバイザーも務めた飯山由貴さんが、精神障害のある妹の千夏さんと制作した映像作品。本作で飯山さんは「本当の家を探しにいく」とつぶやいて家を出ようとする妹を、無理に家に閉じ込めるのではなく、2人で頭に小型カメラを装着して、一緒に近所の住宅街を歩いた過程をおさめている。
2022年、東京都人権プラザで開催された飯山由貴さんの「あなたの本当の家を探しにいく」展。そのなかで企画された飯山さんのインタビュー映像がYouTubeに公開されている(2024年4月12日現在)。本作品をより深く知るための参考に。
参考:公財・東京都人権啓発センター YouTubeチャンネル「【飯山由貴インタビュー】東京都人権プラザ企画展 飯山由貴『あなたの本当の家を探しに行く』アーティスト・インタビュー動画」