ストーリー
2024年3月発行のフリーペーパー『DIVERSITY IN THE ARTS PAPER Vol.15』のメインビジュアルとなるイラスト。画像の左側には「DIVERSITY IN THE ARTS PAPER」のタイトルロゴと、本号特集テーマである「おはなし 聞く、語る、語りなおすこと」とテキストが配置されている。その右側には人物が本を開いている様子が描かれており、人物の上半身はひらいたページを光源とする光に照らされ、その輪郭が揺らいでいる。

(カテゴリー)コラム

『DIVERSITY IN THE ARTS PAPER Vol.15』の歩き方

おはなし 聞く、語る、語りなおすこと

読了まで約4分

(更新日)2024年03月22日

(この記事について)

フリーペーパー『DIVERSITY IN THE ARTS PAPER』の第15号が、2024年3月に発行されました。本ページでは、特集「おはなし」の全貌を掴むべく、編集部のステートメント、4つの特集記事の要約紹介、編集後記(イラストレーターのmakomoによる4コマ漫画も!)をひとまとめ。このガイドページから各記事を往還し、テーマである「聞く、語る、語りなおす」を深めながら、「障害」や「表現」について、一緒に考えることができれば幸いです。

本文

※フリーペーパー『DIVERSITY IN THE ARTS PAPER vol.15』は全国の配布協力施設・店舗にて入手いただけます。また本ページ末尾からもPDFのダウンロードが可能ですので、ガイドとなる本記事とあわせてお読みください


ステートメント

特集:おはなし 聞く、語る、語りなおすこと

目の前の一個の人間が自分には計り知れない存在である、という事実に行き当たるときに生じる「畏れ」は、その人の果てしなさと出会う「よろこび」と常に一対です。「聞く」ことを通じて、自分自身をつくりかえていく旅。

—小野和子『あいたくてききたくて旅にでる』(PUMPQUAKES、2019年) p.351 濱口竜介「聞くことが声をつくる」

民話採訪者として東北各地をめぐる小野和子さんの著書に、映画監督の濱口竜介さんがテキストを寄せている。そこでは「聞く」ことは、古い自分を打ち捨てて変革することだと記されている。「聞く」行為は、それに対する自身の反応に直面することと切り離すことができないのだ。小野さんの言葉を借りるなら「語り手に見合う自分をつくり出さなくちゃいけない」。

今号の特集は「おはなし 聞く、語る、語りなおすこと」。私たちを取り巻く社会、さまざまなコミュニティにおいて、これまで近くにあったにもかかわらず無いものとされてきた声、問われるまで本人さえも気づかなかった背景や見方、声を上げることすら抑圧されてきた語り。それらと、「聞く」ことを通して向き合い、ともに語りなおす術を探るために。各地の実践者と出会い、その語りを聞くことからはじめてみたい。


もくじ

REPORT|子どもたちの困難を生きるためのおはなしに変えるイタリア・ミラノの絵本出版社、カルトゥージアの実践

【写真】カルトゥージア出版が刊行した絵本の数々が机に平積みされている

生きづらさを抱える子どもたちに寄り添い、声を聞き、絵本のかたちに昇華させる 、ユニークな出版社がイタリアにある 。ミラノに小さなオフィスを構えるカルトゥージア出版だ。小児がん、発達障害、親の離婚など、困難に直面する子どもたちが、問題に向き合い、壁を乗り越えていくことを助けるために、専門家の力を借りながらさまざまな「おはなし」を創作してきた 。その実践とは?

[文] 末澤寧史
[写真提供] 株式会社どく社
[取材協力] 多木陽介
[編集] 鈴木瑠理子(MUESUM)、多田智美(MUESUM)


INSIGHT|ともに語りなおすための術

【イラスト】抽象的にデフォルメされたひとりの人が寝そべっている。まわりには白の星、緑の波線、赤茶色の球のようなモチーフが描かれている。

さまざまな感覚や特性をもつ人たち、そしてそれぞれの困難と向き合う人たちの声に耳を傾け、ともに語りなおすためにはどうしたらいいのだろうか。その術を模索し実践する、本・漫画・映画・現代アート、4分野の作品を手がかりに探ってみたい。

[文・編集] 白井暸、多田智美(MUESUM)、永江大(MUESUM)、鈴木瑠理子(MUESUM)
[イラスト] 飯尾あすか


REPORT|ともに笑い、怒り、語るために 「わたしの幻聴幻覚」プロジェクト

【写真】愛媛県・松山の〈和光会館〉外観。石造りの門の両脇に木が植えられ、地面に木漏れ日が映っている。門の先には駐車場と、同館に併設された、NPO法人シアターネットワークえひめが運営する〈シアターねこ〉の玄関口がある。

異なる他者の感覚に表現を通して向き合い、対話を生み出す。そんな実践が、愛媛・松山のNPO法人シアターネットワークえひめで行われている。精神障害のある利用者同士がそれぞれの抱える幻聴幻覚について聞き取りとスケッチを行い、カードや演劇の台本を制作し、制作物を用いたワークショップを通して共有するというものだ。2023年7月に開催された本プロジェクトの展覧会を振り返りながら、「聞く、語る、語りなおす」ことを考えてみたい。

[文・編集] 永江大(MUESUM)
[写真] 善家宏明


COLUMN|私たちは全然違うけれど、少しずつ似ているし、変わることができる

【イラスト】「私たちは全然違うけれど、少しずつ似ているし、変わることができる」という記事タイトルをイメージしている。星が広がる夜空のような空間に、輪郭線がギザギザとした緑色の人物と、輪郭線が波形の薄紫色の人物という、姿の異なる2人の人物が向き合いながら浮かんでおり、お互いが持つ丸く白い光の球を見せ合っている。

美術家・飯山由貴さんご自身の活動から、「語りなおすこと」をとらえるコラム。異なる感覚をもつ人を介して新たな言葉に触れ、学び直し、変化してゆく私たちの身ぶり。その積み重ねの先にあるものについて。

[文] 飯山由貴
[編集] 永江大(MUESUM)
[挿絵] 飯尾あすか


編集後記

【イラスト】イラストレーターのmakomoによる4コマ漫画。1コマ目テキスト、「むかしむかしあるところに」。頭部がハート型の赤い生物が、親の膝の間で『ももたろ』という絵本を読み聞かせてもらっている絵。2コマ目テキスト、「むかしむかしあるところに」。成長した頭部がハート型の赤い生物が、子どもたちに『ももたろ』の絵本を読み聞かせている。3コマ目テキスト、「わたしわたしいまいるところ」。頭部がハート型の赤い生物が、「あかたろ わたしわたし いまいるところ ここどころ しらないところ」と紙に物語を綴る。4コマ目テキスト、「わたしわたしいまいるところ」。表紙に『あかたろ』と書かれた本を楽しそうに読むベージュ色のヒト型生物と緑色の生物、その様子を見て「へへ」と照れ笑いする頭部がハート型の赤い生物が描かれている。

幼い頃に親しんだ物語、歴史や事実を伝える証言、身のまわりの人との対話——誰しも、胸に響く「おはなし」と出合った経験があるのではないでしょうか。聞く/語るという営みは、相手と自分を確かめ合う手ざわりを実感させてくれます。揺らぐ自分を差し出し、相手を信じることから紡がれていく「おはなし」。だから、苦難を歩き、希望を見出すために、私たちのそばにあり続けるものなのだと感じました。


DIVERSITY IN THE ARTS PAPER vol.15は、PDFでもご覧いただけます。


DIVERSITY IN THE ARTS PAPER vol.15
発行元:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS
編集:MUESUM(多田智美、永江大、鈴木瑠理子)+白井瞭
アートディレクション&デザインUMA/design farm(原田祐馬、岸木麻里子、大隅葉月)
校正:鴎来堂
印刷:シーズクリエイト