ストーリー
【写真】NPO法人「スウィング」の看板。木目が浮き出た木製看板に、白いゴシック体の文字でNPO Swingと書かれている。

(カテゴリー)コラム

〇〇はじめました
第1回 株式会社NPOつくりました——木ノ戸昌幸

読了まで約1分

(更新日)2024年02月27日

(この記事について)

全国で福祉や芸術文化に携わる人たちの近況をのぞいてみたい。そして、地域や世代を超えた情報交換と協働のきっかけがつくれたら——そんな想いから、各地で活動する方々の新たな挑戦を、寄稿コラムでお届けする新企画「〇〇(まるまる)はじめました」。第1回に登場いただくのは、元NPO法人スウィング代表であり、2023年に株式会社NPOを立ち上げた木ノ戸昌幸さん。会社設立に至った背景とは?

本文

「NPO様~、NPO様~」

大真面目な雰囲気漂う銀行で、奇妙な名を呼ぶ行員がいる。何か変だなと思っていると呼ばれているのはどうやら僕らしい。「株式会社NPO」をつくるとどうなるか? 「株式会社様~」ではわからないので「NPO様~」なんて呼ばれ、株式会社なのになぜかNPO感は極限まで高まることになる。不思議だ。そしてかなり照れ臭い。

2006年、僕は仲間とともにNPO法人スウィングを京都・上賀茂(かみがも)に設立。障害のある人ない人およそ30名が働く福祉施設〈スウィング〉の事業運営を通し、世にはびこる「べき」「ねば」や既存の価値観を揺るがせながらさまざまな市民活動を展開してきた。根底にあるのは息苦しい社会をほんのちょっとでも柔らかく、生きやすくしたいという願いだ。

17年。何かを得るのにも失うのにも十分な時間だろう。まるで交通事故のような思いもよらない事態に直面したNPO法人スウィングは2023年3月に解散。けれどそのとき、失意のなかではじめて気づいたのだ。市民活動はNPO法人だけにしかできない特権なのだろうか。それはただの名であり型であり、正に〈世にはびこる「べき」「ねば」や既存の価値観〉への囚われに過ぎないのではないか。できるよ! NPO法人じゃなくったって全然できるよ!

株式会社NPOは福祉施設〈スウィング〉とともに、これからも変わらず市民活動を続けてゆく。僕たちはNPO法人を憎んでいるわけでも、ましてや馬鹿にしているわけでもない。むしろその精神を引き継ぎながら現実を生き抜くため、一見ふざけた名前の新たな組織を“どうしても”必要としたのである。

【写真】NPO法人「スウィング」の看板。木目が浮き出た木製看板に、白いゴシック体の文字でNPO Swingと書かれている。
運営法人が変わっても使い続けられる看板

関連人物

木ノ戸昌幸(株式会社NPO)

(英語表記)KINOTO Masayuki

(木ノ戸昌幸(株式会社NPO)さんのプロフィール)
1977年生まれ、愛媛県出身。株式会社NPO代表取締役、元NPO法人スウィング理事長。2006年より京都・上賀茂にて福祉施設〈スウィング〉を運営し、既存の仕事観、芸術観を揺るがす創造的実践を展開中。単著に『まともがゆれる ―常識をやめる「スウィング」の実験』(朝日出版社、2019年)