2022年10月26日
玉ねぎをむく、おおもりさん

畑以外の作業をしていることもちょこちょこあって。その場面を、野村さんが撮影している。彼の状態が感じられる、画として好き。畑でもそうなんですが、基本ぽつんとひとりでいることが多い。おそらくなんらかの孤独を抱えてじっとしていたり、時折作業をしたり。そんなおおもりさんの姿を見ながら、彼と僕が同い年ということもあって、少しずつシンパシーを感じていった(山野目)
僕は「自分には価値がない」と考えたことが確かにあって、植松死刑囚は「障害者には生きている価値がない」と言った。人間の価値を計る、その点で似ていると思ってしまった。ではなぜ、植松死刑囚は障害を持つ人たちを殺したのか。本当のことはわからないけど、「みらいファーム」の映画を作る中で、その理由を考えながらつくっていた。
ーー『フジヤマコットントン』青柳拓監督ステートメントより引用
でも、その考え方はきっと差別だった、偏見だった。目の前の撮影を引き受けてくれた利用者の人達に失礼だった。なぜなら、実際に「みらいファーム」にいって、みんなに再会すると、みんな人間の僕を笑顔で子どもの頃と同じように受け入れてくれて、カメラも快く了解してくれて、山野目君や野村さんの二人のことも受け入れてくれて。とにかくやさしく見守ってくれるように、この撮影の一年間を受け入れてくれた。そう感じている。
10月27日
綿を育て、紡ぎ、織る

みらいファームの人々が育て、紡ぎ、めぐさんとゆかさんが織った綿布のカット。織っているときには気づかなかった、ディテールの不揃いな美しさ。それぞれの形を成す糸が縦に横に重なる姿は、みんなの日常とその関係性を象徴するよう。このシーンに至る日常という物語を映画館で体感してほしい(辻井)
11月9日
撮影者の祈り

山野目くんは、1年間の撮影を通しておおもりさんとの関係性を築いてきた。撮影を終えて僕らが去ることで、徐々に明るくなっていったおおもりさんをまた落ち込ませてしまうんじゃないかと周囲が心配するほどに。ほぼ最後とも言える、畑にたたずむおおもりさんを撮った山野目くんのこのカットには、どこか“祈り”のような想いがあったと思う。撮影が終わればいなくなってしまうが、こうやって関係性を築いてきたことは本当で、それをちゃんと映像として刻む。綿を見つめ微笑む姿は、今考えても山野目くんにしか撮れない(青柳)
山野目くんとのやりとりのなかで、時折見せていた笑顔。このカットでは、山野目くんを意識して微笑んでいたのかなと想像します(辻井)
このとき、おおもりさんは、いつものようにじっとしていたけれど、表情に違うものがあった。これまでよりも、あたたかい空間がそこにあるのかなと思って撮っていた場面(山野目)
2023年1月2日
けんいちさんの墓参り

帰るとホッとする地元でのひとときのなかにも、簡単には帰って来られない現実を感じられる(山野目)
実は自分の弟は、けんちゃんよりも重い重度知的障害があるのだが、同じように父が亡くなったとき、誰に教わるわけでもなく仏壇に手を合わせて祈ったという出来事があり。このシーンは特に、そのことを思い出して印象深い。コミュニケーションの苦手なけんちゃんだが、その分、優しくしてくれたお父さんへの想いが強かったのだと伝わる(辻井)
1月11日
たつなりさんからの質問

ロマンチストな、たつなりさんからの投げかけにハッとさせられる(山野目)
作業の様子を撮影していて、急に草刈りの手を止めて顔を上げ、思いついたように「仕事ってなんだと思う?」。この対話自体が、“一緒につくっている”という感覚をすごく感じさせてくれた。「一体お前は何を考えているのか?」と聞き合うこと。それは、人の存在を肯定するということでもある。お互いが対等に聞き合えるって、すごくありがたいなと(青柳)
人と相対するとき、いろいろ考えていたことが剥がされて、その人個人の魅力を注視していく。その人個人の悩んでいることや、大変なこと、うれしいことは、それぞれだと思い知らされる。
ーー『フジヤマコットントン』青柳拓監督ステートメントより引用
1月12日
牛と触れ合い、腹をたたくおおもりさん
米をつくるなかで出た藁を、職員さんと一緒に牛に食べさせている場面。畑にいるおおもりさんとは明らかに違う見え方をしている。同じく、おおもりさんが良い方向へと変化しているのがわかる場面として、いつものように寝ていたふみとくんのところに、ふらっと現れたおおもりさんが、何を話すでもなくお腹を叩き合う。相撲好きということもあり、塩を投げた後の動作を真似しているんじゃないかと想像(山野目)
2月25日
編集作業
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膨大な素材のなかから辻井潔さんがOK素材を洗い出す作業、山野目さんと野村さんから「こういう素材があるよ」と提案をいただきながら。それを構成の大澤一生さんが全体を観ながらブラッシュアップする。僕はこのとき、作品全体に神経が行き届くような、詩、タイトルの案をとにかく沢山書き出していた。連日連夜、それぞれの立場で試行錯誤し、だんだんと映画が形づくられていく過程(青柳)
5月25日
関係者に向けた試写会

最初に作品を見せたのは、施設職員と利用者さん、その保護者の方々も含めた関係者全員。「いつものみらいファームじゃん!」という感想をいただき、この場所の“普通”がちゃんと撮れたのだと思えた(青柳)
10月11日
試写会ハガキの送付

『フジヤマコットントン』を紹介してもらえるよう、たくさんのメディア関係者に1枚1枚丁寧に名前入りラベルを貼る。観客のみなさまに届くまでにはまだまだやることがたくさん!(青柳)
めぐさんは「みんないろいろあるんだよね」と言いながら、僕の質問に最後まで答えてくれた。答えてくれるやさしさに、どうやって応えたらいいかと考えてもやっぱり答えがでてこない。ただ「みらいファーム」の人達と、これからもずっと関係を続けていけたら、この映画が出演してくれた人たちに喜んでもらえたら。一人ひとりの個別の魅力を多くの人に伝えて、見た人が思い浮かぶ「気にかけているけど会う機会のなかった人」にもう一度興味を寄せてもらえたら、どんなにうれしいことだろうと思う。植松さんへのアンサー、僕は人の価値を「ある/なし」の土俵に乗せない。目の前にいる人の魅力を綿のように広げて包み込みたい。大森さん、ゆかさん、めぐさん、たつなりさん、けんいちさん、たけしさん、主に6人それぞれの日常の中にある「良い!」を素直にみせたい!
ーー『フジヤマコットントン』青柳拓監督ステートメントより引用
つづきは劇場で!
映画公開情報
『東京自転車節』で2020年の緊急事態宣言下における都市を描いた青柳拓監督による最新作、『フジヤマコットントン』。2月10日(土)より東京・ポレポレ東中野を皮切りに、全国の劇場で順次公開予定。関連情報は、公式サイトと青柳監督によるYouTubeチャンネルにて。