登場人物
ダイバーさん(学ぶ人)
アートに興味があるが自分にはできると思っていない。福祉や手話にも興味がある。
シティさん(教える人)
ダイバーシティの実践のため福祉やアートの現場でいろいろなことをやっている。
読書バリアフリーって何?
この間、芥川賞を受賞した市川沙央(いちかわさおう)さんの『ハンチバック』を読みました。市川さんはメディアなどで積極的に発言もしていますが、自身が肢体不自由で重い本を扱いづらかった経験から「読書バリアフリー」の大切さを説いています。市川さんのような肢体不自由な人も読書に大きな困難を抱えているということを想像したことがなくて、読書バリアフリーに興味が湧いたし、なんとかしなきゃいけないと思いました。
市川さんの発言で急に「読書バリアフリー」という言葉が世間に広まった感じがしますね。実は、読書バリアフリーの必要性はかなり前から言われていて、2019年には「読書バリアフリー法」とも言われる「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」も施行されています。
そうなんですね。どんな法律なんですか。
視覚障害や発達障害、肢体不自由などにより、本や雑誌、新聞を「読む」のがむずかしい人たちでも読めるような環境を整備することを定めた法律です。音声で読み上げる本や、大きな文字の本、電子書籍などさまざまな形で本を提供できるように努めましょうという法律です。
2019年というと、最近までそういう法律がなかったんですね。
視覚障害者の読書については、2009年に著作権法の改正があって、公共図書館や学校図書館で書籍を録音して提供することが認められるようになりました(37条3項)。それから少しずつ範囲が広がっていき、より広範になって行きましたが、サービスを受けられる人には視覚に困難を抱える人のみで、視覚障害者等用の資料を製作できる機関も公立図書館や学校図書館や文化庁長官が個別に指定する団体などに限られていました。
しかし、2013年に視覚障害者等の著作物の利用を促進するための国際条約である「マラケシュ条約」が採択されると、2018年には著作権法が更に改正されて肢体不自由など視覚以外の理由で書籍を読むことが困難な人も含まれるようになり、製作主体も法の条件をクリアしたボランティア団体に拡充されました。
著作権法が、著作権者の権利に制限をかけることによって視覚障害者等に「読む機会」を提供するものであるのに対し、読書バリアフリー法は障害の有無に関わらず、読書がしやすい社会をつくることを目指すものです。そのため、公的機関だけでなく出版社や書店なども含めてバリアの解消を目指していけるよう様々な施策が行われることが期待されます。そのため基本計画では、図書館がアクセシブルな書籍等を貸し出せるようにするだけでなく、アクセシブルな電子書籍の販売の促進や、そのための技術開発の支援なども行うとしています。誰もが本を読む権利と買う自由を享受できるように。
そういう歴史があっていま少しずつ読書バリアフリーが進んでいるわけですね。具体的に読書が困難な人ってどんな人がいるんですか。
まず視覚に障害があると、印字された紙の本を読むのはむずかしいですよね。まったく見えない場合は、点字図書や音訳図書を利用します。弱視の場合は大活字本や文字を大きくできる電子書籍なら読めるケースもあります。電子書籍は読み上げ機能を利用できる場合もあります。肢体不自由のある人で、物理的に本を持ったりページをめくるのがむずかしい場合は、電子書籍やパソコンを利用します。ディスレクシアという学習障害の一つで、文字の読み書きに限定した困難がある人は、耳で聞くことで解決できるケースもあれば、漢字にふりがなが振ってあればいいケース、大きな文字なら読みやすいケースなど、それぞれにあった読書方法を見つけることが大切になります。また、手話を第一言語とするろう者も、日本語で書かれた本を読むのに困難が生じる場合があります。他にも、知的障害や難病、外国ルーツの人などさまざまな理由で既存の本では読むことが困難な人がいます。
本当に多岐にわたりますね。こんなに本を読むのに困っている人がいたなんて知りませんでした。どうしたらいいのか考えたいです。
じゃあまずは、公共図書館で障害者サービスに取り組んでいる司書さんに話を聞きに行きましょう。
図書館が担う読書バリアフリー
目黒区立八雲中央図書館で障害者サービス担当の司書をされている椎原(しいはら)綾子さんです。椎原さん、こちらの図書館ではどんなサービスをしているのですか。
録音図書って図書館で作ってるんですか?
目黒区立図書館で作っているのはデイジー規格の録音図書です。全国の図書館や団体が主にボランティアで製作して、国立国会図書館やサピエ図書館などに登録すると全国で利用できるようになります。
これがデイジーの録音図書を再生するプレストークという機械です。ディスクを入れたら必ず最初にタイトルを読み上げます。操作はボタンの位置で覚えます。デイジーの録音図書は表紙や挿絵もすべて言葉で説明するし、ボタン操作で章ごとの頭出しができたりするのですごく使いやすいみたいです。80代の中途失明の方でも使い方を覚えて積極的に読書を楽しめるようになったりもしています。
編集部注:デイジー(DAISY)とは、Digital Accessible Information Systemの略で、デジタル録音図書の国際標準規格です。
全国の図書館で同じような障害者サービスが利用できるんでしょうか。
全国の公立図書館の中で、障害者サービスをきちんとできているところは、約2割で、ほとんど大都市圏に限られてしまいます。サービスをやっていると言っていても、対面朗読の体制がなかったり、国立国会図書館やサピエ図書館に登録していないところもたくさんあります。障害者サービスは自前で資料を揃えなくても、国会図書館やサピエ図書館から資料を借りたりデータをダウンロードすることで貸出ができるのですが、まだそれさえもできていない図書館もあるのが現状です。
それでも必要性を感じている図書館や自治体は増えていると思います。私は日本図書館協会で障害者サービス委員をやっていて、オンラインで図書館向けに講習などもやるんですが、受講生はどんどん増えてる印象があります。
ひとりひとりにあった読書方法を見つける
いま電子図書館を始めている自治体が多いですが、電子図書館は読書バリアフリーに寄与すると思いますか。
パソコンで文字の本を読む肢体不自由の方などにはすごく便利なツールだと思います。ただ、視覚障害者にとっていくつかネックがあります。一つは、そもそもそのサイトがアクセシブルであるか。音声でホームページを利用する際にそのサイトが使いやすいかどうかが問題になります。サイト自体がアクセシブルでないと資料を探すのが難しかったり、なかなか目的の本にたどり着けないということが起こります。
もう一つは、電子書籍自体の使いやすさです。デイジーの場合は図や表まで音声化されていますが、そういう電子書籍は少ないです。書籍を音声を読み上げることさえできれば視覚障害者が使えると考えるのは晴眼者の立場でしか見てないんです。人それぞれの事情に寄り添ったものを電子図書館だけではなかなか提供できません。
ただ、電子図書館をアクセシブルに使えるようにするための基準が、2023年に国立国会図書館の方で作られたので(編集部注:電子図書館のアクセシビリティ対応ガイドライン)、これから良くなっていくのではないかと思います。
人それぞれ読書が困難な理由が違うし、使いやすいやり方も違うというのはすごく重要なことですね。読書バリアフリーって電子書籍など色々な形で読める本を用意すればできると思っていましたが、そうじゃないんですね。
図書館でもそれぞれの利用者が使える資料にたどり着けるようにしなければいけません。私たちの図書館では、利用登録するときに、何が困難なのか、コミュニケーション方法はなにか、デイジー再生器やスマホなどの機器を使っているか、ヘルパーやボランティアのサポートは受けているのかなど事情を細かく聞き取り、それに基づいてどんなサービスを提供すればいいのか考えます。その事情を捉えて対応できる人がいないとむずかしいんです。
細やかに対応できる人の仕事が不可欠なんですね。
人それぞれの違いを理解して、この人はこれ、この人はこれって対応できるようになるにはある程度経験が必要になります。それができる人が十分にいる図書館はなかなかないのではないでしょうか。その人材をどう育成していくかはずっと課題ですね。
図書館でそのようなサービスをやっていることを知らない人も多いんじゃないでしょうか。
そうですね。障害者の場合そういったサービスの情報を得ること自体がむずかしいので、目黒区の場合も、ご家族やヘルパーさん、ケアマネさんからの紹介でくるケースがほとんどですね。資料を用意して待っているだけでは利用者は増えないので、周りを巻き込みながらいかにPRしていくかが重要です。学校へのアウトリーチもしますし、区の行事にブースを出展して体験してもらうなど、いろいろな機会を捉えてPRはしています。
あまねく全国の市区町村に広げていくのはかなり大変なことですね。
そうですね。小さな自治体では「利用者がいない」とか言われてしまうんですが、読書に困難を抱える方がいない自治体ってないと思うんですよ。見えにくいことはあるかもしれませんが。実際にやっていくと、だんだん利用者って増えていくものなので、まずやることです。やらないと使いたい人も諦めてしまう。
それで「利用者がいない」ように見えてしまう悪循環に陥ってしまうんですね。全国の自治体の図書館にきちんとした障害者サービスを提供できる体制が整って、それを担える人材が育っていくことが必要ですね。ありがとうございました。
どうでしたか。
長い時間をかけて一歩一歩良い方向に向かいつつ、いままさに全体の体制も変わろうとしているとは感じました。椎原さんのように一人ひとりの事情を汲み取ったサービスができる司書さんが全国各地に増えていけば、図書館での読書バリアフリーはもっと充実しますね。
一方で、本を作る側も規格が統一されていなかったり、使いづらいものしか用意されていなかったりと、まだ解決すべき課題がありそうです。
そうですね。読書バリアフリーを実現するには、本を作る側の力も必要です。「読書バリアフリー」についての児童向けの本を制作した読書工房の成松一郎さんに話を聞きに行きたいと思います。
さまざまな立場の人の読書や生活に役立つ本を出版する
読書工房代表の成松一郎さんと編集スタッフの村上 文(むらかみあや)さんにお話を聞きます。成松さんは20年ほど前から、大活字本など読書バリアフリーを考慮した本を出版していますが、どうしてそのような本を作るようになったんですか。
大学生の頃、私は点訳や音訳のボランティアをしていたことがあって、読書工房を立ち上げる前に勤務していた出版社の時から、障害のある人のことを取り上げる本を作りたいと思っていました。
私が大学生だった1982年ごろの話ですが、音訳ボランティアを通して知り合った盲学校の生徒が、私と同じ大学を点字で受験したいって言ってくれたんです。でも、当時は受験ができず、なんとかしたいと教授会も回ったりしましたが叶いませんでした。いろいろなやり取りの中で、文学部の教授が「点字は漢字がないから文学なんか理解できない」ということを平気で言うくらい偏見がある時代だったんです。
その後1990年頃になると、障害のある学生の大学への「門戸開放」といわれる流れの中で、障害のある人たちも点字や拡大問題による大学受験ができるようになってきました。それでそうした事例をまとめた本を作りたいと思ったんです。でも当時は障害者を扱った本は少なかったので、「そんな本どうやって売るんだ」と言われてなかなか出版企画が通りませんでしたね。1998年に乙武洋匡さんの『五体不満足』がベストセラーになってから、障害のある人に関する本が以前よりも多く出版されるようになりました。
そもそもどうして、ボランティアで障害のある人と関わるようになったんですか。
高校生のときに山田太一さん脚本の『男たちの旅路 車輪の一歩』というテレビドラマを見たのがきっかけの一つです。車椅子の人が切符を買って電車に乗ることがすごく大変だった時代に、それを真正面から取り上げた話でした。主演の鶴田浩二さんの「人に迷惑をかけるな、というルールを、私は疑ったことがなかった。」「しかし、それが君たちを縛っている。」「だったら迷惑をかけてもいいんじゃないか?」「ギリギリの迷惑はかけてもいいんじゃないか。かけなければ、いけないんじゃないか」という一連のセリフにすごく考えさせられ、ドラマにも感動しました。
いい言葉ですね。それで障害のある人と関わるようになって、出版社での経験を経て読書工房を設立したんですね。
設立した2004年当時、「読書バリアフリー」という言葉はまだ一般的ではありませんでしたが、視覚障害者はじめ、さまざまな立場の人の読書や生活にかかわる本を作っていきたいと考えて、読書工房という出版社を設立しました。大活字本自体は1980年代からあったんですが、高齢者向けが中心だったので、私たちはほとんど手つかずだった子ども向けをやろうと思い、講談社と連携して「大きな文字の青い鳥文庫」の販売を2009年からはじめました。
私は、「さまざまな障害がある方たちに取材しながら本を作ろう」と誘われて、設立当初から一緒にやっています。ディスレクシアをサポートする人のための本、学校図書館でさまざまな障害のある子どもにどんなサポートをしたらいいかという本、知的障害や自閉症のある人たちの読書に関する本などを作ってきました。
読書に困難がある人向けのものと、それをサポートする人たち向けの本の両方を作ってるんですね。
私はそれは両輪だと思っています。バリアフリー図書だけを作っても紹介する人がいないと普及しません。
「読みにくさ」を感じている人たちに、「どうやったら読みやすくなるのか」「どんなメディアが読みやすいのか」を伝えられる身近な人がいなければ、その人に届きませんから。
一貫して、障害のある人が当然享受すべきものを享受できるように取り組んでこられたんですね。どんな人でも読める本があるべきだし、何が読めるのかわかるように周囲がサポートすべきだというのは、まさに読書バリアフリーの根底にある考え方だと思います。
借りる権利と、買う自由
20年近く読書バリアフリーの問題に取り組まれてきて、ここ数年、機運が高まっていると感じますか?
読書バリアフリーの必要性はかなり前から、研究者や公共図書館関係者によって指摘されてきましたが、技術的な理由などでできることは限られていました。また、多くの人にとっては、一部の人の話だと捉えられていました。それが、ここ数年の間に、ICT(情報通信技術)や電子書籍の普及など大きな波が来て、自分にも関係あると思う人が増えて来ているように思います。
2019年に読書バリアフリー法が制定されましたが、法律ができたからといってすべてが解決するわけではありません。障害者差別解消法が少しずつアップデートをしているように、この法律も、学校、図書館、出版社それぞれの動きが出てきてアップデートされていくんだと思います。
出版社内部の研修で講師を務めた際に、参加した編集者の方から具体的な質問をいくつもいただきました。例えば、ファッション誌の編集者から「視覚に障害のある方たちにももっと見てもらうためには、どうしたらいいだろうか」といった質問があり、意識は高まってきていると思いました。
なぜそのように意識が変わりはじめているんでしょうか。
出版社には、依然として電子書籍が売れると紙の本が売れなくなると思いこんでる人がいて、それがネックになっていました。コロナの時期から電子書籍が少しずつ売れはじめ、ビジネス的な可能性を考えはじめたのではないでしょうか。
とはいえ、障害のある読者に配慮した本の提供は、ボランティアが担う福祉の範囲だと考えられがちなのも事実です。長年にわたり、出版社が障害のある人はマーケット外と判断してきました。「借りる権利と、買う自由」という考え方があるのですが、出版社が積極的に関わらなければ本を「買う自由」は広がりません。
なるほど、好きな本を好きな形で買えるようになるにはまだまだ課題が多いということですね。どうしたら「買う自由」が広がるようになるのでしょうか。
大切にしたいのは多様性です。市川沙央さんがテレビのインタビューでもうまいことを言っていました。駅などでエレベーターがあれば、車椅子ユーザーで階段が上れない自分は助かるけど、階段をなくしてくれと言っているわけじゃない。本も同じで、電子化してほしいだけで紙の本がなくなってほしいわけではないと。
それぞれの人が読みやすい本を作るにはどうしたらいいんでしょう。
電子書籍ならば、文字の大きさやフォントを見やすいものに変えたり、ルビをつけたり外したりする機能をつけることができるので、カスタマイズすることで、幅広い読者に快適な読書を提供できます。ほかに例えば、大きな文字の本ならば弱視の子だけではなく、外国ルーツの子やディスレクシアの子で文字を読むことが苦手でも読めたりします。何種類かの問題にオーバーラップして読書を可能にする場合があるんです。
障害者だけのためではなく、人それぞれ自分の読みたいようにカスタマイズすることが当たり前になるのがベストです。読者が本をさまざまなバージョンから選んで買うようになったら、出版社も当然さまざまなバージョンで作って売るようになります。好循環が生まれると思います。
一方で、読書工房の著作『読書バリアフリー』の中で、マンガも読書バリアフリーに含まれるというのは印象的でした。
マンガは絵と文字があって、文字もセリフと地の文の違いが見てわかるので、ビジュアル優先の人にとってはすごくバリアフリーなメディアです。聴覚障害のある人にとっても、人が話している言葉が明確に区別されているのは、わかりやすいと思います。
読書の障害って、明確に何かの障害によるものだけではありません。例えば、登場人物がたくさんいるとわからなくなるから読書が苦手とか、長い小説は苦手だけどショートストーリーだったら読めるなど、いろいろな人がいます。それぞれに読みやすいメディアがあると思います。だから、マンガも含め自分に合ったメディアを選べるようになると、読書バリアフリーは進むと思います。
決してやってはいけないのは、この障害の人はこのメディアって固定してしまうこと。同じ名前の障害でも一人一人バリアが違うので、各それぞれの人あった方法を見つけることが大事なんです。
一人一人にあった方法という意味では、障害とかは関係なく、本を読まない・読めない子どもにどうやって読んでもらうかというときに、他のメディアも並行して使うという方法もあります。例えば、学校で夏目漱石の『坊っちゃん』を読む課題が出たとき、ドラマやアニメになってるものを見たら話の内容がわかるので、安心して文字の本を読めることもあります。映像メディアと文字メディアを横断するほうが、文字の本を読む近道になる場合もあります。
自分が受け入れやすい形から入って、それから文字の本を開いてみるのはいいですね。では、どうしたら自分にあった読書の方法をみつけることができるんでしょうか。
図書館や書店の棚にさまざまなかたちの本が並ぶことによって、自分にとって読みやすいものを発見できると思います。理想的なのは、同じタイトルで、文字の本とマンガと大活字本とアニメのDVDとみたいに並んでいる棚ですが、今はそこまで揃えることができる本自体が少ないのでむずかしいですね。それでも、図書館では最近、バリアフリー図書の棚を作るところが増えています。それはすごく嬉しいことですね。
読書バリアフリーを実現するために図書館が担う役割はやはり大きいでしょうか。
本と初めてコンタクトをとる場所は、書店や図書館かと思いますが、地方では書店が次々と潰れていっている厳しい状態です。だから、図書館に期待しています。図書館が元気になって本を読む人が増えれば、書店も元気になると思います。
図書館も昔のように静寂の中でおとなしく本を読んだり、調べ物をするだけの場所ではなく、居心地良く自律的にいろんなことができるように変わってきています。先日、豊橋市の「まちなか図書館」というところに行ったら、結構いっぱい人がいて、おしゃべりも自由で、みんな思い思いに利用していました。年代や属性も多種多様な人たちが誰でも自由に図書館を利用するようになっていくことが、読書バリアフリーにもつながると思います。
近年では所得格差などによって、子どもにほしい分だけ本を買ってあげている家庭も、全然本もないし新聞も読まない家庭もあり、その差が広がっています。学校図書館や公共図書館は主に子どもが家庭環境に関係なく本に触れる機会を得られる場として重要だと思います。
たしかに、読書にアクセスできないバリアの一つとして、経済的な理由もあげられますね。
読書バリアフリーって、実はすごく範囲が広いんですよ。例えば学校図書館で、周囲から見えない場所にLGBTQに関する本の棚をつくって、関心のある子どもが手に取りやすくしてあったり、公共図書館でも自動貸出機を置くことで、例えばDV被害といった人から知られたくない事柄についての本を借りやすくしていたり、これも本を読むバリアを取り除く取り組みの一種とも言えます。
読書バリアフリーってあらゆる読書の敷居を低くすることなんですよね、結局は。バリアフリーというと福祉のイメージが強いので、私は最近、「読者の多様性を支える」という言葉を使いたいと思っています。バリアを取り除くというよりも、多様性をいかに作れるかという仕事をしたいんです。
3人の話を聞いてどうでしたか。
読書バリアフリーの範囲はものすごく広いけど、図書館や出版社、それぞれの場所で努力している人たちがいるとわかりました。誰もが自分の読みたい本を無理のないスタイルで読めるようになるには、まだまだかかりそうですが、良い方向に動きつつあるという感じはしました。
そして、さまざまなかたちの本を多様なニーズのある人に繋げる人や場所がもっと増えると良いですね。
大事なのは、誰もが「読める」本と出合って、読書の楽しさや恩恵を当たり前に得られることですね。