ストーリー

(カテゴリー)コラム

“しょうがい”とアートをつなげる法律って何?その3

目次

【イラスト】いくつもの手の助けを得て空に飛び立った人

(カテゴリー)コラム

“しょうがい”とアートをつなげる法律って何?その3

クレジット

[イラスト]  naoya

[写真]  池田礼

[文]  石村研二

読了まで約17分

(更新日)2023年01月13日

(この記事について)

「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」を考えるコラムシリーズ。第3回目は文化庁が行っている「障害者等による文化芸術活動推進事業」を通して、障害のあるなしに関わらず文化芸術を共に楽しみ共に生きる社会を実現するために必要なことを考えます。

本文

登場人物

ダイバーさん(学ぶ人)

アートに興味があるが自分にはできると思っていない。福祉にも興味があり、手話ができる。

シティさん(教える人)

ダイバーシティの実践のため福祉やアートの現場でいろいろなことをやっている。


共生社会の実現に向けた障害者等による文化芸術活動推進

【イラスト】手や足をつなぎ、大きな輪、小さな輪になって踊る大人や子ども、輪の外で踊る人もいる。

シティさん

今回は文化庁が実施している、「障害者等による文化芸術活動推進事業」について見ていきます。

文化庁は、「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」に基づく基本計画に沿って、鑑賞や創造の機会の拡大、作品等の発表の機会の確保など、「障害者等による文化芸術活動の推進」に関する施策の総合的かつ計画的な推進に取り組んでいます。

令和元年度からは、障害者等による文化芸術の鑑賞や創造の機会の拡充、作品等を発表する機会の創出などを図る取組、人材育成に資する取組等、共生社会を推進するための様々な取り組みを、民間の団体や地方公共団体に委託実施しています。

ダイバーさん

難しい言葉が多いですけど、だんだんなれてきました。障害のある人たちももっと芸術作品を見たり、作ったり、発表したりする機会を拡大するための取り組みや、そのために必要な人材を育てたり、その先にある共生社会を実現するための取り組みを、民間に委託してやっているということですね。

シティさん

まあそうですね。民間とは限りませんが、そのような取り組みをする団体を募集して審査してふさわしい団体に委託して実施しています。具体的にどのような取り組みが求められているのかは、文化庁の「障害者等による文化芸術活動推進事業」のサイトから公募情報を見てみましょう。

読んでみてどうでしたか?

ダイバーさん

大雑把に言うと、主に「共生社会の実現」に向けて、障害者だけでなく、高齢者なども含めた多様な人たちが、「文化芸術活動」を行うよう促す取り組みが求められている気がしました。補助的に、その活動を発信すること、普及のための人材の育成、文化施設へのアクセス改善などにも取り組んでいる印象です。

シティさん

大雑把すぎるとは思いますが、まあいいでしょう。では、今度は、採択されたプロジェクトの一覧があるので、これを見てどんな傾向があるのか考えてみてください。

ダイバーさん

まず目につくのは、共生社会やインクルージョンという言葉ですね。細かく見ていくと、様々な方向から共生社会に向けて取り組んでいくプロジェクトが選ばれている印象があります。

聴覚障害だったり、視覚障害だったり、知的障害だったり、障害のある子どもだったり、不登校児童生徒を対象にしたものもありました。加えて、対象を絞らない「誰でも」参加できるものもありましたね。障害のあるなしの垣根をなくすというか、障害のある人もない人も一緒に活動することで共生社会を実現しようというものなのでしょうか。どのようなやり方があるのか気になりました。

シティさん

そうですね。いろいろな人を集めたからと言って一足飛びに共生社会が実現するわけではないですからね。実際には地道な活動の積み重ねで少しずつ共生社会に近づいていくというイメージで実施されているのだと思います。実際に現場で、自分で体験してみたほうがわかると思うので、行ってみましょう!


DANCE BOX

神戸市長田区にあるDANCE BOXは、文化庁委託事業「こんにちは、共生社会(ぐちゃぐちゃのゴチャゴチャ)」を2019年度から実施しています。お話を聞く前に、委託事業のプログラムの一つ「やさしいコンテンポラリーダンスクラス」に参加して、その後ナビゲーターの西岡樹里(にしおかじゅり)さんに話を聞きました。

やさしいコンテンポラリーダンスは、「踊ってみたい方はどなたでも」参加できる月1回のダンスクラスです。障害のある人も、子どもも、お年寄りも、子ども連れでもコンテンポラリーダンスを1時間半楽しめます。

まずはストレッチから。黄色いウェアが西岡樹里さん。

【写真】15人ほどの参加者が輪になってストレッチをしている、子どもを抱いた人や小さな子も。ダイバーさんも参加。

いろんなストレッチでじっくり体をほぐします。

【写真】列になって向かい合い、右足を高く上げる参加者たち。

人とぶつからないように歩きます。これもコンテンポラリーダンス?

【写真】思い思いに歩く15人ほどの参加者たち。小さな子と手を繋いでいる人、すれ違う人も。手前をダイバーさんも歩き、奥でシティさんが見守っている。

歩きながら、合図があったら止まってポーズ!

【写真】ポーズをとる10人ほどの参加者。右手を上げている人や左手を顔の横に持ってきている人、西岡さんは体を傾けて右手を顔の横に持ってくるポーズ。

次は、つながって橋を作るダンス

【写真】ポーズをとってつながる人たち。両手を広げる人、右足を段にかけるひと、しゃがみ込む人、寝っ転がって腕を広げ足を上げる人。ダイバーさんも寝っ転がり右足を上げて手を繋いでいる。画面上に水色、黄色、ピンクの色の粒。

いろんな形でつながって。

【写真】横一列になってつながる人たち。反り返ったり、しゃがんだり、子どもを抱いて足を広げて立っていたり。

いっぱいつながって

【写真】画面の真ん中に立っている人が二人、その周りに座っている人や寝転がってる人がいて、足や手でつながっている。ダイバーさんも寝っ転がって手足を伸ばしてつながる。画面上に水色、黄色、ピンクの色の粒。

最後もストレッチで。

【写真】床に座り、手を組んで腕を前に伸ばす4人の女性と立っている女の子。

ダイバーさん

すごく楽しかったです。このクラスはいつからやってるんですか。

西岡さん

2020年の10月からです。私は特別支援学校の専攻科に該当する「エコール神戸」で10年ほど月1回ダンスのクラスをやっています。そこの卒業生が「ダンスを続けたい」と言ってくれて、なにかできないか考えていたところでDANCE BOXに声をかけていただいたのが始まりです。ただ「障害がある人のため」にやるのではなく、以前から持っていた「踊りたい人のための場を開こう」という気持ちをもとに、踊りたい人なら誰でも参加できる枠組みでやるつもりでした。

ダイバーさん

どうしてそのような考えになったんですか。

西岡さん

このクラスで大切なのはその人なりにダンスを楽しむことだと思っているんですが、それは誰でもすぐにできるわけではありません。みんなその種を持ってはいるけど、どうすればそのダンスの種を育てていけるのかは、その人が生活してきた環境だったり過ごしてきた時間、歴史によります。そして、それはその人なりの踊りを作るものでもあります。そこには障害のあるなしは関係なくて、一人ひとり違ったあり方があると思うんです。だから障害のあるなしで分けるのではなくて、踊ってみたいかどうかで、踊ってみたいという人なら誰でも来てほしいなと思って。

ダイバーさん

実際やってみてどうでしたか。学校で教えてるのとは違うのか、それとも同じなのか、本質的には一緒なのか。

西岡さん

ここだと隣の人が教えてくれていたりとかがあります。今日も目の見えない方のために男の子が床をパンパン叩いて自分で人に伝える方法を編み出して、コミュニケーションを取って、ダンスを作ろうってやっていたように、私が言わなくても、自分たちでなんとかすることで、その踊り方を見つけていくことがあります。

【写真】ダンスクラスで右足を上げてキックしながらマイクで話をする西岡さん

西岡樹里さん

ダイバーさん

参加されてる方も変化していくっていうか、会ごとに変わっていくっていう感じはしますか。

西岡さん

参加する人によって雰囲気は全然変わるんです。コンテンポラリーダンス自体が決まった形でこう踊りましょうという正解があるものではなくて、 その場でその人が作っていくものだから、ここでもそれが皆さんと一緒にできるんじゃないかなと思っています。

ダイバーさん

参加してみてプレッシャーがないと感じました。ワークショップの場って、妙な緊張感があるところがあったり、できなきゃなんか恥ずかしいんじゃないかとかいう気持ちが湧くことがあるけど、ここではその辺を子どもが走り回ってるし、違うことやってる人がいたり、疲れたら休んでてもいいいし。

西岡さん

私も本当にそれがいいと思っています。エコール神戸の卒業生組も「私のあり方」みたいなのでいてくれるから、なんか場が柔らかいし、大人も普段の外での「頑張らなくちゃ」みたいなところから、ちょっと自由になれるみたいな感じがある。かれら卒業生たちがいてくれなかったら、多分ここは成立しない。みんなでかれらのあり方をシェアするというか、肩の力を抜くこととか、こういう踊り方もあっていいとか、思ってもいなかった人がこんな素敵なダンスを踊った、じゃあそこから学べばいいとか、先生に教わるんじゃなくてみんなでシェアした中から学んでいくような、そんなあり方がいいんです。

ダイバーさん

このプロジェクトにも「共生社会」という言葉があって、共生社会について考えているんですが、社会っていうから作っていかなきゃいけないみたいなイメージがあったんです。でも、今日感じたのはもうそこに共生社会はあって、自分が入ってなかっただけっていうことでした。

西岡さん

自分が入ってなかっただけ、とってもいいです。あ、入ってなかったみたいな。

【写真】ダンスレッスンの一幕。ポーズをとる人、しゃがんでいる人、前かがみの人、その上にひじを突いて立っている人。奥には休んでいる人も。

 

続いて、DANCE BOXに創設時から在籍し、現在は事務局長を務める文(あや)さんに話を聞きました。

ダイバーさん

今回のダンスクラスも含めて、どうして障害者に向けたプログラムに取り組むことにしたのでしょうか。

文さん

DANCE BOXはもともと大阪の劇場を拠点にしていて、2000年くらいから障害のある人達と関わっていました。2007年に「循環プロジェクト」という身体に障害のあるダンサーのプロジェクトに取り組むようになり、それが2012年まで続きました。

その間の2009年に、神戸の新長田に移って劇場をオープンすることになったんですが、その時にここに来る人は誰なんだろう、どういう劇場であるといいのかなってところから考えて「地域の人に開かれた劇場であろう」と思ったんです。ダンスが好きな人だけでなく、地域の人も来てくれる場所にしようと。ダンスの公演もやりながら、地域の人の集まりに場所を貸したりとか、地域の人と協働してイベントをやったりとか。

そんな流れの中で、2019年度の文化庁の募集を見て、「共生社会の推進」というところで応募しました。じつは、この地域はいろんなルーツにつながる人がたくさん暮らしているんですよ。朝鮮半島にルーツを持つ人も多いし、他にもベトナムなど様々な地域から来た人がいて、ミックスルーツの人も多いんです。そのような人たちとの共生も考えつつ、障害のある人たちとも一緒にやっていきたいと思ったのが始まりです。

【写真】テーブルの前に座って微笑む文さん。黒地に白の水玉のシャツを着ている。

文さん

ダイバーさん

じゃあ最初は障害のある人たちと、というものでは必ずしもなかったんですね。

文さん

2019年に始める時に、キックオフミーティングをやったんですが、4部構成で、第1部は障害とアート、第2部は地域と国籍を考えるで、第3部が高齢者、第4部が子育てをテーマにトークを行いました。

「地域の人に開かれた劇場であろう」と進めた時に、半径約1キロメートルの中であらゆることが循環するような地域、そんな地域にある劇場について考えたいというのがありました。それを実現する為にはどうすべきかずっと探っています。その中で、障害のある人と一緒にプロジェクトを立ち上げていけたらいいよねって思って始めました。

ダイバーさん

今回、参加させていただいた「やさしいコンテンポラリーダンスクラス」以外にもいろいろな取組をやっていますが、その中で見えてきた成果や課題はありますか。

文さん

成果としては、「Mi-Mi-Bi(ミミビ)」という義足の人、車椅子ユーザー、ろう者、視覚障害者などから構成されたミックスエイブルのパフォーマンスカンパニーが立ち上がったことです。演出も含め、自ら主体的に動かしていく集団の発足は、これからの時代に向けて意味のあることだと思っています。同時に、最低限必要なサポート体制を整えることも大事です。

2019年から続けてきて、1番難しいのは情報を届けたい人、届くべき人にどうやって届けるのかですね。あえて「ぐちゃぐちゃのごちゃごちゃ」とつけたのも対象を広く取るためでしたけど、なかなか行ってみよう・参加してみようまでの第一歩につながらない。行ったことがある場所だとハードルが一気に下がるからとりあえず一度会場に来てもらいたいとは思っているんですが。

ダイバーさん

私の感想ですけど、障害のある人も一緒にいることでクラスの場の雰囲気が柔らかくなる気がしました。参加する前は障害のある人がいると気をつかったり難しいのかなと思っていたんですが、本当に気が楽で、むしろハードルが下がりました。

文さん

とってもいい視点です。頑張らなくていいんですよね。参加している人それぞれがみんなのことを自分とは違う、いろんなタイプの人たちと捉えていて、特定の障害にとらわれていない。エコールの卒業生もいれば、視覚障害者もいるけど、子どももいるし。

【写真】ダンスレッスンの一幕。3人が腕を広げてつながる。そのひとりが文さん腕を上に伸ばし、右足を上げている。

ダイバーさん

それに、この場は障害のある人のためになにかやる場ではなくて、参加者みんなが自分のためにやる場だということを感じました。

文さん

参加者のひとりに学校の先生がいて、「自分にとってすごい発見がいっぱいある。今日はこんな発見した、今日はあの子がこんな風にやっていることがびっくりした。」って言って下さるんです。ここに関わる人は、障害がどうのではなく、ここに来るなんらかのモチベーションを持っているのだと思います。そのモチベーションは人それぞれ違うけど。

ダイバーさん

私は、本当に障害とかそういうことではなくて、みんな違うんだから歩み寄ってその違いを埋めていけばいい、それを体感してすごく学びになりました。それは体験しないとわからないことではあるけど、体験したら誰でもが感じられることでもあるとも思いました。

文さん

ここに拠点があり、事業を継続することでどんなことをやっているか地域の人にわかってもらい、居場所のような場になっていくことは大事だと感じます。来られない人には、私たちが出向くこともできる。障害、言語、世代も含めて、みんな色々違うそのままで、一緒に楽しめる現場を作っていきたいですね。

【写真】冊子の表紙。ダンスクラスの写真の上に「こんにちは、共生社会」の文字。

「こんにちは、共生社会」の事業報告書

シティさん

かなり感銘を受けていたようですが、クラスに参加してお二人と話してみてどうでしたか?

ダイバーさん

クラスの最後にみんなで橋を作ったときに、各々違った動きや体のかたちを工夫してつながることで一つのものが出来上がるというのが象徴的だなと感じました。「あ、この人はこうするんだ。じゃあこうやったらうまくいくな」っていう作業の連続で、考えすぎかもしれないけど、共生社会を体感するために作られたプログラムなのかなって。

【写真】繋がって橋になるダンスをする参加者。立ったり、座ったり、四つん這いだったりする人が繋がり合い、ダイバーさんも寝っ転がって他の人の足首をつかんでいる。

ダイバーさん

そしてそういう工夫は自分がこの空間で楽しく過ごしたりこの時間を意味あるものにするために必要なもので、自分のためにやっているんだっていうことも実感しました。共生社会と言うと、障害のある人とか高齢者とか外国籍の人とかそういう人たちのために、その人たちが暮らしやすい世の中を作るって考えがちだけれど、実は自分のためでもあって、一人一人が共生社会を心地よくするためにどうしたらいいかを考えなきゃいけないんじゃないかと思いました。いちばん大事なのは私たちの考え方とか行動で、だから共生社会の実現のためには、一緒に共同作業や制作ができる文化芸術活動が有効で大切なんだということが実感できました。

シティさん

それでは次は異なるアプローチをしている金沢21世紀美術館に行ってみましょう。


金沢21世紀美術館

【写真】金沢21世紀美術館のガラス張りの建物の前の芝生で話をするダイバーさんとシティさん。

金沢21世紀美術館(21美)は2004年にできた現代アートの美術館です。市民に開かれた美術館として、館内には誰でも利用できる託児所やキッズスタジオ、ライブラリー、カフェもあり、美術鑑賞に限らず地域市民が美術館に来られるようになっています。毎年市内の小学4年生を招待する「ミュージアム・クルーズ」など、開館当初から多彩なプログラムを実施しています。

「障害者等による文化芸術活動の推進」のための文化庁事業は2019年度に受託していますが、それ以前からろう者を中心とした障害のある人たちと関係を築き、さまざまなプロジェクトを展開してきました。

現在(2022年10月から2023年3月まで)は、福祉実験ユニット「ヘラルボニー」のプロジェクト「lab.5 ROUTINE RECORDS(ルーティン・レコーズ)」の展示を行っています。この展示は、障害のある人が日常的に繰り返す行為の音を採集し、それをループさせて音源として活用した体験型のアートです。

今回はルーティン・レコーズの制作にも参加した金沢大学附属特別支援学校の児童たちが美術館を訪れて作品を体験する様子を見学し、その後、エデュケーターとしてプログラムにかかわる吉備久美子(きびくみこ)さんにお話を伺いました。

展示室の壁面にレコードジャケットに見立てたルーティン音の紹介があり、中央にDJブースがある。

【写真】ルーティン・レコーズの展示室のシティさんとダイバーさん。中央の緑色のテーブルの上にいろいろなものが並び、壁面にはレコードが飾ってある。

DJブースでは、音源とビートをミックスする機械があり、誰でもDJプレイを楽しめる。

【写真】ボランティアガイドがDJマシンを操作するのを見つめる児童。
【写真】DJマシンを操作する児童。テーブルの上にはテニスボールや缶コーヒーなどが並んでいる。

16種類の音や声をひとつひとつ聞くこともできます。

【写真】画面を見つめながらヘッドホンの音に耳を澄ませる児童。

ルーティン音からプロの音楽家が創作した楽曲を聞く。

【写真】ヘッドホンをしてミュージックビデオが映る画面を見つめる児童とダイバーさん。

ダイバーさん

金沢21世紀美術館と障害のある人を含めた地域の人たちとの関係について聞きたいとおもいます。「みんなの美術館 みんなと美術館」の冊子も読ませていただきました。今日も小学生の見学者がたくさんいましたが、開館した2004年から市内の小学生を招待しているんですよね。

【写真】笑顔で話をする吉備さん。

吉備久美子さん

吉備さん

開館初年度(2004年)に市内の小中学生約4万人を招待して、2006年からは小学4年生を毎年招待しています。開館時のミッションの一つに「子どもたちともに成長する美術館」があり、それを実践する形です。

ダイバーさん

その中で、障害のある子どもたちも美術館に招待してきたわけですか。

吉備さん

市内の小学校すべてと特別支援学校に声をかけました。見えない場合や知的障害の場合など来館が難しいケースもありますが、ろう学校の場合は手話通訳者がいると安心するそうなので手配するなどして対応しました。声をかけ続けたことで学校や先生の意識が変わったり、参加してくれるようになった学校もあります。回を重ねることで学校と美術館の双方が連携活動への理解を深めています。

【写真】水の中に寝そべっているようにみえる児童たち。寝っ転がって上に手をふっている。

21美の目玉の一つ、レアンドロ・エルリッヒ『スイミング・プール』を体験

【写真】プールの上から覗き込む二人の児童と付添いの大人二人。

『スイミング・プール』の上から覗き込む

ダイバーさん

その中で2019年に、文化庁の「障害者等による文化芸術活動推進事業」を受託して、ろう学校の生徒と「手話を交えたおしゃべり作品鑑賞会」をやることにしたんですね。

吉備さん

そうです。その前年に、ろう者である牧原依里さんと雫境(DAIKEI)さんが撮った全編無音の映画『LISTEN リッスン』の上映会とトークセッションをやったんですが、その運営メンバーにろう学校も入っていました。受託事業を申請する際にろう学校の生徒と一緒にやるイメージはしていて、先生とも話し合って内容を決めました。

ダイバーさん

冊子で前年の上映会の運営メンバーが「ふだんはサポートしてもらう側ばかりだけど、自分がお客さんを迎える側になれたことがすごくうれしかった。」といっていたというのが印象的でした。お客さんとして行くだけじゃなくて、運営する側に回って主体的に関わることで、見方が変わって関わり方も変わってくるんだなと。

吉備さん

本当にそうです。本人たちも「え、私たちできるの」の前に「やっていいの」とか言っていました。多分いろんな気持ちがあったのだと思いますが、「どう?」って聞いたらやってみるって言ってくれました。この上映会で、聴覚に障害のある人たちが運営して、聞こえる人たちがお客さんとしてくる形ができて、「手話を交えたおしゃべり作品鑑賞会」などにつながっていきました。

ダイバーさん

苦労も多かったと思いますが、困ったことなどはありましたか。

吉備さん

手話通訳付きのプログラムを始めたころは、企画しても参加者ゼロだったんですよ。自分たちがいいことをしているっていう気持ちがどこかにあって、届けたいところに届けるとか、仲介してくれる人とまず繋がるとか、そういう意識がなかったんでしょうね。冊子にも「自己満足期」って書いているんですが、事務手続きでも手話通訳派遣の理由を「聴覚障害のある参加者のため」って書いていたんです。だけど、聞こえない人は普段から手話通訳がなくても対応しているわけで、通訳って私たちが必要としているんだと気づいたんです。それで「聞こえ具合を問わず、プログラムの中で交流するため」みたいに理由が自分の中で書き変わりました。

【写真】人の顔のイラストや文字がびっしり書き込まれたホワイトボードの前で話をする吉備さん。

背景にあるホワイトボードは特別支援学校の来館対応を共にしたボランティアとの振り返り会のまとめ

ダイバーさん

本当にそうですね、かれらはかれらでやっていけるわけで。コミュニケーションを取れないのはこっちのせいでもあるのに、なんかこっちが手を差し伸べているみたいに思ってしまっている、その見方を変えることが大事ですね。

吉備さん

その後、2021年度に「みんなの美術館 みんなと美術館 来館しやすさと楽しさを考える10のレッスン」というプログラムをやりました。聞こえない、聞こえにくい、聞こえる人たちが一緒に美術館について考えるプロジェクトです。その次に2022年度に取り組んだのが「ルーティン・レコーズ」です。

ダイバーさん

今回の「ルーティン・レコーズ」の展示はどのような経緯で実現したんですか?

吉備さん

以前フリーペーパーの記事で紹介されていて、面白いグループだなと思っていたヘラルボニーが、2020年10月に名古屋でポップアップショップやっているというので見に行って、「興味を持ってます」と伝えたんです。その後、21年の3月に金沢に来てもらって、こういう場所なんです、こういう町なんです、将来的に一緒に面白いことやりたいですって話をしたんです。そこでイニシャルアイディアの1つとして出たのが「ルーティン・レコーズ」でした。

21美でやるなら、ヘラルボニーがぽんと来てやるんじゃなくて、地域ともつながってもらって、21美としても新しいことを発信したいって思いがありました。それで、ヘラルボニーがすでに連携している全国の福祉施設に加えて、金沢大学附属特別支援学校などに視察に行って、一緒にやることになりました。

ダイバーさん

すごく面白い展示でしたし、アートの真髄というか真価を感じました。時には問題行動ともとられる音を出す行為が素材になり、作品になるというのは、見方を変えることで価値を転換する、本当に文化芸術にしかできないことだと思います。

吉備さん

初めDJブースって、何のために必要なんだろうと思ってたんですよ。でも、音を介して人と会うっていうことなんだなっていうのと、その人を自分に1回落とし込んで、他の人にも伝えるっていう意味では、すごく大きいメタファーな気がだんだんしてきました。

ダイバーさん

DJブース楽しかったです。私は文化の場ではみんな平等なんだと感じました。みんなそれぞれの音を持っていて、その価値は平等なんだと。それもその人を自分に落とし込んでその違いを感じることができたからなんでしょうね。

【写真】工作室でおもちゃで遊ぶ児童と、美術館のスタッフやダイバーさん、シティさんがそれを見守る。

シティさん

今回も2か所訪ねましたが、どうでしたか。

ダイバーさん

DANCE BOXと金沢21世紀美術館、両方で感じたのは、文化の場では障害のあるなしに関係なく平等だということです。文化芸術ってフィールドに入って一緒にやってみると、みんなそれぞれが違うから面白いというのが実感できる気がしました。だから、文化芸術活動を通して共生社会を目指す意味はあると思います。

シティさん

そうですね。障害のある人を支援するという考え方に留まらない、お互いに学び合う関係性を築くことが大事だと、今回強く感じましたね。

ダイバーさん

さまざまな場面であらゆるひとと共に生きる方法を考えていけたらと思いました。

シティさん

今回、「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」について色々学んできましたが、この法律はできてまだおよそ5年という新しい法律です。2022年には4回にわたって有識者会議などもあり、これまでの「基本的な計画」を見直し、これらの結果を受けて、法律の実施のあり方も変わっていくと考えられます。

今後どのような施策が行われるのか注意してみながら、文化芸術活動を通じて誰もが豊かに暮らせる社会にするために何ができるのか、みんなで考えていきましょう。

【イラスト】舞台上にシティさん、小さな子ども、ダイバーさん、白杖を持った人、車椅子の人、盲導犬を連れた人が並んでいる。