(田中みゆきさんのプロフィール)
田中みゆき
TANAKA Miyuki
キュレーター/プロデューサー。「障害は世界を捉え直す視点」をテーマに、カテゴリーにとらわれないプロジェクトを通して表現の捉え方を障害当事者含む鑑賞者とともに再考する。最近の仕事に『音で観るダンスのワークインプログレス』『オーディオゲームセンター』『ルール?展』展覧会『語りの複数性』など。2022年7月から12月までACCのフェローシップを経てニューヨーク大学障害学センター客員研究員としてニューヨークに滞在後、帰国。2025大阪・関西万博 日本館基本構想クリエイター。WDO世界デザイン会議2023登壇。
第四のとびら
顔のない世界
“わたし”が存在していれば
身体はいらない?
生まれたときから全盲の加藤秀幸さんが映画制作をする『ナイトクルージング』の準備をしているとき。「全盲の監督の映画には顔がない人が出てくると思われたくない」という加藤さんの思いにより、顔の研究をしている先生のところに話を聞きに行きました。
そこではいろいろな顔の模型があって、そのひとつが私に似ていたので「私に似ている顔があるけど、どれだと思う?」と質問したら「顔なんて想像したことがない」という返答。
確かに、誘導するとき加藤さんは私の肩には触るけど、顔に触る機会はありません。となると、加藤さんは、私をどのようにイメージしているのだろう。
魂のようなものがぼんやりあるのかもしないし、声だけで身体は肩しかないのかもしれない。自分がイメージしたことのない「顔のない世界」をいろいろ想像しました。
第五のとびら
遠近法ってなんだろう
遠くても近くても
椅子の質量は変わらない
加藤さんは立体を平面図に起こすことが理解できないといいます。三次元で触れる世界が周りにあるのに、どうしてそれを二次元にする必要があるのかと。
同様に、生まれつき目が見えない加藤さんにとっては、遠近法という考え方も馴染みがないものです。椅子は椅子なのに、遠くに移動するとどうして小さく見えるのか。
加藤さんの世界では、遠くに行っても椅子の大きさは変わらないけど、目の見える人は小さく見えるという。
考えてみれば遠近法は、私たちの目が前向きにふたつ付いているから、奥行きが生まれて見えるというだけのこと。目が真横についていたらきっと世界は違う見え方になるでしょう。
第六のとびら
音で観るダンス
舞台の後ろからだって
観ることができる
目の見える人と見えない人が、それぞれのイメージを重ねてダンスを形づくるような場所をつくりたい。そんな思いで『音で観るダンスのワークインプログレス』を始めました。
ダンスは、ストーリーにもとづいて構築されていないことが多いから、いろいろな感じ方ができる世界。始めた当初、目の見えない人たち5~6人と目が見える人たちで研究会を行っていました。
最初にダンサーが踊ったあと、見えない人たちに感想を聞くと、ひとりの女性が「私は、舞台上でダンサーの後ろで踊りながら観ていました」と言ったんです。
もちろん頭のなかの話ですが、ハッとさせられました。見えているとどうしても客席から見る前提で話してしまうので、ダンサーを後ろから想像しようとはなかなか思わない。舞台は正面から見るものだという暗黙のルールがあるからです。
いかに常識に縛られているかを考えさせられました。