(この記事について)全国の福祉作業所でつくられたプロダクトを扱う東京・吉祥寺にあるセレクトショップ〈マジェルカ〉。店内には、見ているだけで心がおどるおよそ300点のアイテムが並んでいます。「社会貢献の一部としてではなく、商品自体に価値を感じて買ってもらえるか」を基準にアイテムの開発、プロデュースを行う〈マジェルカ〉オーナーの藤本光浩さんに、魅力的なプロダクト制作のコツを伺いました。
やりとりを重ねてアップデート。見栄え良くデザインされたものが“売れる商品”とは限らない
東京のなかでも多様な文化が集う人気の街、吉祥寺。駅から10分ほど歩くと〈マジェルカ〉と書かれた看板を掲げるなんとも楽しそうな雰囲気が漂う店に辿り着く。店内は色とりどりの雑貨にあふれていて、宝探しをしているかのようなワクワクした気持ちが湧き上がってくる。実はこの店、普通の雑貨店とひとつだけ異なる点がある。置いてあるすべての商品が、福祉作業所に通う障害のある人たちによって作られた商品なのだ。
2011年にオープンした〈マジェルカ〉は、福祉作業所で作られる商品を扱う店の草分け的な存在。ウェルフェア(障害者福祉)とフェアトレード(公正な取り引き)をかけ合わせた造語「ウェルフェアトレード」をコンセプトに、全国からセレクトした300アイテムを取り扱っている。「私たちの役割は、まだ世の中に知られていない価値を堀り起こしてたくさんの人に提供することだと思っています」と、オーナーの藤本光浩さんは話す。まさに〈マジェルカ〉を開いたきっかけも「埋もれていた価値」に気がついたからだった。
当時、メーカーのマーケターとして働いていた藤本さんは、ある企画に参加した際に全国から集めた商品のなかにあった国産の木でていねいに作られた積み木に目がとまった。「それが福祉作業所で作られているものだとわかって驚きました。そのころの私は障害のある人たちが商品価値の高いものを作っているなんて想像すらしていなかった。だからなおさら衝撃を受けました」。調べてみるとさまざまな福祉作業所ですばらしい商品が作られていた。それなのに、これまでの自分や周りにいる人たちはその事実を知らない。いや、そもそも障害がある人が普段何をしているかすら知らない人が多いのではないか。こうした現状をもったいないと思うと同時に、そこにビジネスチャンスもあると直感した藤本さんは、会社を辞めて店を開くことを決めた。
〈マジェルカ〉で取り扱う商品は、作業所で作られていたものをそのまま並べるのではなく、やりとりを繰り返しながらアップデートしているものも多い。パッケージの変更など細かい部分を提案する場合もあれば、藤本さんがいちから商品企画に関わることもある。社会貢献の一部としてではなく、その商品自体に価値を感じて買ってもらいたいという思いが根底にあるからだ。
「ただ見栄え良くデザインされたものが“売れる商品”というわけではありません。お客様が求めているものは何なのか、商品に独自性はあるのか、どのように店に並べるのか、どう販売していくのか。売るまでをひとつとしてデザインする。そんなマーケターの視点を持つことが大切なのです」。
「500円なら買ってもいいかな」と考える人と「2500円でも買いたい」と心から欲する人、どちらに商品を売りたいか
マーケターとしてのものの見方は、値段の付け方にもあらわれている。たとえば、手間ひまがかかるためにひと月に10個しか作れない商品があったとして、「500円なら買ってもいいかな」と考える人と「2500円でも買いたい」と心から欲する人のどちらに売りたいのか。きっと後者のほうが買った後もずっと大切にしてくれるだろう。そんなふうに藤本さんは値段を付けるとき、商品が持つ価値だけでなく届けたい相手を含めて考えている。
こうした藤本さんのマーケター視点が至るところに反映されている〈マジェルカ〉には、福祉作業所で作られた商品を扱っている店とは知らずに訪れる客も多い。「そういうお客様が商品の背景を知ると、ほとんどの方が『いい買い物をしました』『なおさら大事にします』と言ってくれます。障害のある人が作っている、その背景も商品価値として受け取ってもらえているからこその言葉だと感じています」。
※商品は取材時(2020年8月)のものです。現在はお取り扱いしていないものもあります。店舗へお問い合わせください。
◯Information
《マジェルカ》
東京都武蔵野市吉祥寺本町3-3-11 中田ビル1F
電話:0422-27-1623
ウェブサイト:https://www.majerca.com/