服、の中に混ざり込むもの
ファッションは多様性そのものでもあるけれど、その逆の役割を担う場合もある。個性を出したくて着る服、スーツやユニフォームのように集団を集団たらしめる服。いろんな服が存在します。
多様なファッションの世界ではつくる側のスタンスも人それぞれ。
今回は、インディペンデントな立ち位置でデザインはもちろん、服の作り方、見せ方、届け方に於いても独自の世界を掘り下げているブランドを3つご紹介します。
HATRA
ファッションとテクノジーが自然に同居していて、それがらしさ、になっているブランド。
例えば写真のニットは、AIが鳥の画像を学習して生成した架空の鳥がモチーフとなっている。作り方も、三次元CADをいち早くデザインに取り入れていたり、これまたAIを使って生産過程での生地の無駄を減らす取り組みをしていたり、洋服を作る課程自体も美しくデザインされている。
感覚や流行に左右されがちな洋服の世界の中で、ハトラはそこから離れてじっと自分が関心のある技術やアートの世界を見つめて服を作っているように感じる。
そしてそういった背景を仮に知らずに見ても、ハトラの服はシルエットも、ちょっとしたポケットの仕組みも、裏側も美しくて魅力的。すみずみまで妥協がない。
ハトラの服作りはもはや研究と実験といったほうがしっくりくる。研究の結果が美しい、そんなブランド。
nusumigui
愉快なブランド名だけれど、きちんと可愛く、そして、すべての服やバッグが一点物で、デザイナーたちの手づくりで生まれてくるブランド。
型紙(服を作るための設計図のようなもの)も使わないそうで、きっと料理人がその日採れた材料で即興で料理をつくるように、作っている、のだと思う。素材と素材がそこにあった偶然を愛おしむような、そういうライブ感のある、作ることの喜びを感じる洋服。
都心から少し離れた住宅地を抜けた先にあるアトリエショップでは服を買うとその場で買った人のサイズに合わせたりといった仕上げをして、丁寧に包んで渡してくれる。
古い一軒家を二人でリノベーションして、アトリエ兼ショップ兼住居にしていて、その空間のあり方自体も作品のよう。服以外の、家具も、食べ物も、二人は作ってしまう。
nusumiguiのお店に行くこと自体が一つの体験になる。きっともう生活全体がnusumiguiというブランドで、作ること、生活を見つめ直すことを二人は発信し続けている。
STOF
ここではないちょっと離れた世界を描いているブランド。異国を感じるけれど、どの国かはわからない。世界中のきれいなもの、面白いものが溶け込んだるつぼから飛び出したものがたまたま服の形をなしている、そんなイメージ。
毎回、ウィットに富んだテーマを設定して、それに合わせて、いろんなアーティストとコラボレーションしながら、素材からオリジナルで作っている。
例えば写真のコレクションのテーマは「THE WORDROBE」一筆書きのアーティストとコラボレーションしていたり、四文字熟語がテキスタイルのモチーフになっていたり、どの洋服も着ていて人に会ったら、語るポイントがある。
そして見せ方、届け方にも手抜きがない。毎シーズンとっておきのビジュアルが発表され、それだけに留まらず、テーマに合わせて音楽フェスを開催してしまったり、このコロナ禍においてはミュージシャンとコラボレーションしたチャリティーTシャツを発売したり、服以外の世界も見据えて、ジャンルも可能性も、いろんな境界を飛び越えたものやことを作っている。
これを書いている自分は、sneeeuwというブランドをやっている。コンセプトはclean & humor。
ブランド名はオランダ語の雪からとっている。これがsneeuwを説明する時によく使う文言なのだけれど、実際のところ自分のやっていることを客観的に説明するのは難しい。
sneeuwはほぼ自分自身でもあるので、一生俯瞰できないけれど、何となく感じるのは、見たいものを見て、好きだという気持ちを持って、そこから生まれた自分で作りたいという気持ちで作っているブランドなのかなということ。
なので自分のあるいた道筋が形を変えたものがsneeuw。この文章を書いている時間もそのうち洋服の中に混ざり込むのだと思う。