〈ラボラトリオ・ザンザーラ〉との出会い
奥村奈央子さんは、デザインを通して、人と社会とを繋げる取り組みをしている。きっかけのひとつは〈ラボラトリオ・ザンザーラ〉との出会いだ。ザンザーラとはデザイナーやソーシャルワーカーらが共同で設立したイタリア・トリノにあるNPO 福祉法人。
イタリアでは精神科病院が廃止されており、ザンザーラは精神や知的障害がある人たちの表現を通し、様々な隔たりを創造的に解決するために活動している。
シルクスクリーン商品などを制作しているアトリエは街なかにあり、住民は豊かな才能を持つ人たちと気軽に交流ができる。
現在、奥村さんはザンザーラのアジア圏における輸入・販売元パートナーでもある。また、ソーシャルファーム(障害のある人など労働市場で不利な立場にある人々の就労の問題に取り組む企業)や法務省矯正局(少年院や刑務所を所管)などと共に活動・デザインの発信にも携わっている。
どんな人も受け入れる「なんでも来い!」の場所
なぜ、ソーシャルファームなどに興味を?
デザインには、問題解決やビジョンを広げていく可能性があります。デザインは色や形など狭義にとらわれがちですが、もっと大きなビジョンやイメージを設計することができるものです。
数年前、オリーブや野菜の栽培をしている〈クラリスファーム〉の埼玉福興株式会社代表の新井利昌さんと出会いました。
ソーシャルファームは、どんな人も受け入れる「なんでも来い!」の場所。農園では高齢の方や障害のある方などを受け入れています。
私自身、働きすぎてしんどくなったことがあるんです。社会には、病気や障害がある人の行く場所はあるけれど、心が疲れた人が行く場所は少ない。農閑期や高齢で畑に出られない人が、デザインやアートとの協同作業でお金を稼ぐことができたらなと考えています。クラリスには様々な感性を持つ人がたくさんいる。デザインを手段として使い、もっと素敵に見えるようにしたいなと考えています。
いま、矯正局とのコラボレーションも進んでいるそうですね。
法務教官募集リーフレットの企画・デザインをしました。そこではクラリスファームの皆さんと一緒に絵を描いて、デザインをしました。私はデザインには社会とのフックになる力があると思っているんです。ふと、手に取りたくなるような、知りたくなるようなきっかけとなってほしいと思っています。
いかに社会と繋がっていくか、応援してもらえるようになっていけるか。デザインを通して情報の届け方を考えているところです。
奥村さんはどんな世の中が理想ですか?
多様性を排除しない社会ですね。
目指す社会はルイ・アームストロングの歌う『What a wonderful world』のような世界になってほしいとは思うけれど、今は実験の途中という感じ。楽しくできればそれでOK かな。私たちは、デザインという手法を使って、固定観念にとらわれないものや場所を作り出せたらいいなと思っています。