小さな教室から広がる、絵の可能性。
絵画等文化教室〈ほっとチョコレート〉は、障害のある人々の“余暇”活動を目的に開かれている。
午前中の2時間はその名の通り絵画教室として作品をつくるが、午後からは別の活動を行う。例えばウォーキングをしたり、おやつをつくったり、クリスマスシーズンであればクリスマスパーティーをしたり。
昼食はみんなで近くのスーパーマーケットに買いに行く。これもまた彼らにとって、「一大イベント」なのだそうだ。生徒たちは時々、職員からピシャリと注意されることもある。コミュニティ内での活動を通して、必要な素養を身につける、部活動のような場でもあるのだ。
ところが、肝心の制作をする環境として厳しそうな部分も見えてくる。公共施設の1室を間借りしているため、ダイナミックに油画を描いたり、大きな彫刻作品に挑んだりするのは難しそうだ。一度の教室で4~5人ほどの生徒たちが集まる。画材は主にグリースペンシル(ダーマトグラフ)や水性ペンを使い、“公民館サイズ”の卓上に収められる大きさの紙に描く。代表の松本よしみさんに、なぜこの教室から、受賞作品がいくつも生まれているのかを尋ねてみた。
「せっかく描いた絵だから(もっと外に見せていけたら)、と思ってコンクールに出品するようになったんです。描いている子たちや、ご両親にとっても励みになりますし」。
松本さんたちは、あくまでも“余暇活動”の一つとして、ゆるやかに絵画教室を行っている。が、ただ絵を描くための場を提供しているのではない。職員たちは、生徒たちの描きあげた作品のエントリーシートをつくり、コンクールに出品していく。「大変な作業ですけどね」と松本さんは笑う。しかしそうして得た誰かからの評価が、彼らにとってさらなる制作への励みになる。それは絵を描くことが好きな彼らにとって、一番のプレゼントなのかもしれない。
一人ひとりが楽しく、描きやすいように。
絵を描くためにも、教室内でさまざまな工夫がされている。
生徒たちの使用している画材については前述したが、それぞれどの人と相性がいいかが考えられているという。絵の指導を行う、谷澤佐規子先生による判断だ。図鑑や、インターネットからの画像、飛行機の玩具など、描いてみたら楽しいんじゃないかと思うモチーフの資料を持って、先生は教室にやってくる。
よく見ると紙は、真っ白な表面ではなくざらっとした質感の裏面を使っている。これも谷澤先生のアイデアで、グリースペンシルの色がしっかりと乗りやすいのだという。「個性に合う描きやすい方法を組み合わせただけなんです。『この子はこのペンだと描きやすそう』、『こういったモチーフに挑戦してみたら面白いのではないか?』、そんなサポートの仕方です」。
「今後はタブレットで動画を見ながら、動いているものをどう平面に捉えられるかやってみたいですね」、と谷澤先生が話してくれた。そういえば自動車や飛行機、動物がモチーフとして多く見られるが、人物画は描かないのだろうか?
「たしかに人の顔はあまり描いてないですね。いつか挑戦してみようかな」。
小さな教室だが、可能性はまだまだ無限にありそうだ。
絵画教室 ホットチョコレート(和歌山県和歌山市)
お問い合わせは 090-2702-9733(松本代表)
※取材は2019年12月末に実施しました。