今回の共演者
松本寛庸
MATSUMOTO Hironobu(1991-)
1991年生まれ、熊本県在住。不思議な形の極小の単位がひとつひとつ増殖してゆき、濃密な世界を形作る。色彩豊かに色鉛筆を使い分け、丹念に描かれる彼の絵のユニークな点は、写真や実際見た物の記憶を独特のイメージに変換して描くところ。誰の模倣でもない自分独自の感覚をカタチにしてゆくことは、作家本人にも大きな喜びになっているよう。描く場所は母家より少し離れたアトリエ。テーブルに向かって椅子に座り、毎日4〜5時間くらいは平気で描く。5つの皆違う入れ物に300本程の色鉛筆と水性ペン100本程を入れ、目の前には約B4サイズの画用紙。正座して、長身の背中を丸めて、1色1色をリズミカルに塗り分けていく。1色塗るとその色鉛筆を別の箱に移し、またすぐ次の色鉛筆を箱から取るというように、どの色鉛筆も満遍なく使って循環。高機能自閉症と診断されている彼は、豊かな自然と温かい家族や人々に囲まれて、のびのびと独創世界を積み上げている。
この絵を見て、真っ先に思い浮かんだのが「地球防衛軍」。 左上の奥にあるのが宇宙の戦闘機で、隊長グループ。そのまわりに無数にいるものが、聖火のもとに集まってきている「地球防衛軍」。よく見たら、彼らは無数の魚なんですが、魚たちは地球を守ることに人間以上に熱心なんです。防衛のために敵をやっつけようと、魚たちがどんどん集合してくるのね。
聖火が灯されていることからわかるように、これは神聖なる戦いなんです。思いつきで戦っているわけじゃない。地球規模で防衛軍を応援して、動かしているんだ。
まるい点々があるけど、これは宇宙船の風防ガラスにつく水滴。雨粒なのね。雨粒もカラフルに彼らを応援している
それで、この絵に目を移すと、走っている人がいっぱいいる。彼らはパイロットたちね。 これはパイロットたちの訓練であり、試験でもある。宇宙パイロットになれるかどうかを選別する入所試験なんだ。若い力が必要だから、大学が選抜した学生さんたちが訓練している。
目につくのが彼らの靴。これらはスリッパなんです。なぜスリッパを履いているかというと、敵の宇宙船にはどうやら電流が流れているらしいので、船内では普通の靴ではだめ。スリッパに履き替えて、宇宙人をやっつけるという戦法なんです。 だから、パイロット候補たちも専用のスリッパを履いて、駅伝のように延々とぐるぐる回っている。そういう耐久テスト。それを地球で、地球防衛軍の訓練服をきてやっている。
敵の宇宙船がやってくるという情報はずいぶん前からあるのでが、まだ「待て」の状態なんです。浮かんでいるけど、進んではいません。
だけど、魚たちは続々と増えてくるんですよ。だから、この絵におさまらない魚がまだまだいっぱいいる。それは溜まる一方で、地球にこんなに魚がいたのかってくらい。ここに描ききれないくらいの魚を、みなさん想像してみてください。
試験にとおった若いパイロットたちは、この魚へと乗り込んでいく。けれども、魚はどんどんやってくるから、パイロットなしの魚もいっぱいいるんです。だから、まだまだ若い力を募集している。魚のほうが多いからね。魚に負けるな、少子化なんて言ってられません。
さて、結局、地球防衛軍の戦いは始まるのでしょうか。 みんな戦う気は十分なんですけど、この絵自体がものすごく平和。よく見ると、絵の下のろうそくが灯されている。隊長が三十何回目かの誕生日を迎えるから、みんなでお祝いしているんでしょうね。それくらい平和なんです。
おそらくこうやって集まっていることが抑止力になって、戦いまでいかないでしょうね。 だから、この物語のタイトルは「魚の抑止力」です。