美しくにじむ飛行機は、今日も空を飛ぶ。
彌園哲志さんが〈ほっとチョコレート〉に通い始めたのは、教室が開かれた2007年のこと。つまり、10年以上もここで絵を描いていることになる。
この間、さまざまな絵画コンクールで受賞してきた。はじめは地元・和歌山県が主催するものが多かったが、初めての国際的なコンクール「ビッグ・アイ アートプロジェクト2016」では、佳作に入った。
出品作品はカナダ人のアーティストによって購入され、海を渡った。緻密に描かれたロボットの絵を、アーティストは「日本的な作品だ」と評価したという。
職人のような色の選び方、描き方。
哲志さんの描き方は印象的だ。クレヨンと色鉛筆の中間のようなグリースペンシル(ダーマトグラフ)という画材を使って、強い筆圧で丁寧に描く。1回の教室でモチーフがひとつできあがるぐらいのゆっくりとしたスピードだ。
机の上には参考にする写真やフィギュアが置かれているが、資料をじっくりと見ている様子もない。お母さんによると、哲志さんは記憶力がいい。その日外で見たお店の看板などを、そのまま記憶の通り描けるという。
指や手のひらが紙に擦れて、絵の輪郭がぼんやりとにじんでくる。よく飛行機は無機質な美しさがあると言われるが、哲志さんによってあたたかみもあるモチーフになっていく。色の違いにも人一倍敏感で、わたしたちに違いのわからないわずかな差の「黄色」も、哲志さんにとってはそれぞれに異なる色に映る。職人気質な絵描き、とも言えるだろうか。
基本的に背景は描かないそうで、うしろは白いままのものが多い。空の色が塗られているわけでもないのに、それらは確かに大空に浮かんでいるように感じるのだ。
デザインするように、モチーフを配置する。
哲志さんのお母さんは、彼の絵を「デザイン的」と話す。たしかに彼の絵は、モチーフとモチーフの“間”が印象的だ。まるで配置されているかのように、1機ずつ絶妙なバランスをとって描かれている。
「これも、人に見せると『布団カバーとか、なにかグッズにしたいね』って言われたことがあるんです」
大小さまざまなキリンが、縦長に切られた紙に何匹も並ぶ。だけど1匹ずつにある間が、見るものに窮屈な印象を与えない。グラフィックデザイナーのような視点を持って絵を描いているのではないか、と思うほどだ。
哲志さんは休憩中も、黙々と絵を描いていた。
のぞいてみると、彼のまなざしで捉えたアニメ映画のキャラクターの、生き生きとした姿があった。色を重ねた紙には穴が空き、哲志さんによって塗られた色が美しく滲んでいた。