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(カテゴリー)アーティスト

彌園 哲志

クレジット

[写真]  Ayami

[文]  浪花朱音

読了まで約2分

(更新日)2020年03月11日

(この記事について)

彌園哲志さんは絵画教室〈ほっとチョコレート〉(和歌山県)に滞在する間、紙から目線を外すことなく、黙々と描き続ける。最近のモチーフは飛行機。それぞれの機体の個性を見抜き、慎重に色を選び、絵に落とし込んでいく。ゆっくりと丁寧に描かれた飛行機が、画用紙の中を飛んで行く。

本文

美しくにじむ飛行機は、今日も空を飛ぶ。

彌園哲志さんが〈ほっとチョコレート〉に通い始めたのは、教室が開かれた2007年のこと。つまり、10年以上もここで絵を描いていることになる。

この間、さまざまな絵画コンクールで受賞してきた。はじめは地元・和歌山県が主催するものが多かったが、初めての国際的なコンクール「ビッグ・アイ アートプロジェクト2016」では、佳作に入った。

出品作品はカナダ人のアーティストによって購入され、海を渡った。緻密に描かれたロボットの絵を、アーティストは「日本的な作品だ」と評価したという。

「ロボット」シリーズ/紙・グリースペンシル/600×520mm/2016年

職人のような色の選び方、描き方。

哲志さんの描き方は印象的だ。クレヨンと色鉛筆の中間のようなグリースペンシル(ダーマトグラフ)という画材を使って、強い筆圧で丁寧に描く。1回の教室でモチーフがひとつできあがるぐらいのゆっくりとしたスピードだ。

机の上には参考にする写真やフィギュアが置かれているが、資料をじっくりと見ている様子もない。お母さんによると、哲志さんは記憶力がいい。その日外で見たお店の看板などを、そのまま記憶の通り描けるという。

指や手のひらが紙に擦れて、絵の輪郭がぼんやりとにじんでくる。よく飛行機は無機質な美しさがあると言われるが、哲志さんによってあたたかみもあるモチーフになっていく。色の違いにも人一倍敏感で、わたしたちに違いのわからないわずかな差の「黄色」も、哲志さんにとってはそれぞれに異なる色に映る。職人気質な絵描き、とも言えるだろうか。

基本的に背景は描かないそうで、うしろは白いままのものが多い。空の色が塗られているわけでもないのに、それらは確かに大空に浮かんでいるように感じるのだ。

デザインするように、モチーフを配置する。

「花」シリーズ/紙・水彩・グリースペンシル/595×420mm/2015年

「飛行機」シリーズ/紙・グリースペンシル/835×440mm/2017年

「飛行機」シリーズ/紙・グリースペンシル/960×650mm/2018年

「乗り物」シリーズ/紙・グリースペンシル/835×550mm/2018年

哲志さんのお母さんは、彼の絵を「デザイン的」と話す。たしかに彼の絵は、モチーフとモチーフの“間”が印象的だ。まるで配置されているかのように、1機ずつ絶妙なバランスをとって描かれている。

「これも、人に見せると『布団カバーとか、なにかグッズにしたいね』って言われたことがあるんです」

大小さまざまなキリンが、縦長に切られた紙に何匹も並ぶ。だけど1匹ずつにある間が、見るものに窮屈な印象を与えない。グラフィックデザイナーのような視点を持って絵を描いているのではないか、と思うほどだ。

哲志さんは休憩中も、黙々と絵を描いていた。

のぞいてみると、彼のまなざしで捉えたアニメ映画のキャラクターの、生き生きとした姿があった。色を重ねた紙には穴が空き、哲志さんによって塗られた色が美しく滲んでいた。


関連人物

彌園 哲志

(英語表記)MISONO Satoshi

(彌園 哲志さんのプロフィール)
1996年生まれ。絵画教室〈ほっとチョコレート〉には、2007年の教室開始時より参加。和歌山県青少年育成協会「家庭の日」入賞(2012)、ビッグ・アイ アートプロジェクト2016佳作、「日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 公募展 2018」(2018)及び「第2回日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 公募展」(2019) 入賞、アールブリュット和歌山展2018・2019出品など、数多くの賞を受賞、コンペに参加している。