筆運びの繊細さが生きる、水彩画の作品を生み出す。
取材に訪れた時、永瀬洋昌さんは大好きなハンバーガー、フライドポテト、ドリンク、犬のおもちゃの絵を描いていた。引かれた淡いグレーの線はとても繊細で、見ていると清らかな気持ちになってくる。
真っ赤がトレードマークのポテトの容器は、永瀬さんの手にかかると、エンジのような茶色のような繊細な色合いに。パレットにはもはや何色があるのか分からなくなるほど調色が繰り返され、“永瀬さん色”が生まれていた。
元々はアクリル絵具を使い、今とは異なる作風だったという。永瀬さんの活動をサポートして3年目になるスタッフの塩野太郎さんは、彼の行動を見つめるなかで気がついた。
「筆運びがとても丁寧だったので、水彩をやってみたら、別の表現が出てくるかもしれないと思ったんです」
塩野さんは、美術大学出身の彫刻家。絵画の専門家が見たら、自分とは異なるアドバイスをして、永瀬さんのまた違う表現が出てくるかもしれないと感じている。
「他のスタッフのサポートを受けるだけでも、いつもと違った線や色が出てくることがある。だから、永瀬さんがどんな表現をしたのか、休み明けがとても楽しみなんです」
人との関わりによって、作風も変化してきた。
〈工房YUAI〉の表現活動のプロデュースを担ってきたスタッフの大矢将司さんによると、永瀬さんの描く絵にも変化が見られたという。
「以前は神経質な性格で描くものがもっとリアルな感じでしたが、人と関わることでかわいい作風になってきましたね。でも、線は一発で引く、色は線からはみ出さない几帳面さは変わりません」
1日で完結する画用紙ほどの小さなサイズで描くことを好んでいた永瀬さんに、大きな紙を入手した塩野さんは知らずに勧めてしまったことがあった。そして生まれたのが、馬や魚を描いた大きな作品。独特の色のグラデーションに、心が思わず反応してしまう。
「永瀬さんはたくさん筆を使うのを嫌がるので、大きな絵を描くときも面相筆を数本だけ。線や細かな部分は筆の先を使い、大きな面は筆の根元を使って彩色していますね」と塩野さん。
永瀬さんの創作活動をそばで見守る塩野さんは、対話が少ないと魚や鳥など同じモチーフが続いてしまうことに気がついた。
そんなときは永瀬さんに、「何が食べたいの? 空いてしまったここには何がくるの?」と話しかける。
すると、冒頭のハンバーガーのような作品がまた新たに生み出されるのである。
対話によって広がる活躍の場。永瀬さんは陶芸を20年以上行う。動物の置物を作ったり、素焼きの器に下絵をつけることもある。仕上がりの色が想像しにくい色付けは、彼の希望を聞きながらスタッフが行う。こうしてまた、唯一無二の器のシリーズも誕生している。