削ることは描くこと。
友愛学園児童部に入って以来、木工一筋の人生を送る大竹さん。青梅市の企業から依頼されるスノコづくりに長らく携わりつつ、今では木の切り株とヤスリで独自の作品を生み出している。この表現方法に出合うまでは試行錯誤があった。
「ノコギリで木を切りたい思いが強すぎて、自分まで切ってしまって。そこで、ノコギリをヤスリに替えたところ、大竹さんは落ち着いてきました」と〈工房YUAI〉で大竹さんの活動を10年来見守ってきたスタッフの大矢将司さん。
本来は薪用にもらってくる近くの家具工場から出る端材は、大竹さんにとっては宝物だ。「大きいほどいいみたい。長ければ半年ほどかけて、ヤスリで削り続けます」と大矢さん。大竹さんは以前やりすぎて倒れてしまったことがあるほど、気持ちは目の前の切り株に向けられている。
大竹さんは削るのを中途半端に止めることはしない。もう削るところがなくなったら、新しい切り株を求める。それが、作品が完成したサインだ。彼にとって、木はキャンバス、ヤスリは絵筆のようなもの。削るところがない、ということは、もう描くところがないという意味だと分かると、大竹さんのことを理解できたような気がした。
価値観やプライドを大切にする気持ちが、作品を生み出す。
木の工房で大竹さんの創作の様子を見せもらっていると、ノミで切り株を削っている向かいのメンバーに自分のヤスリを突然向けて、私たちに何かを伝え始めた。
「あいつは俺の弟子。なかなかやるだろう」
大竹さんのそんな声が聞こえてきた。
そして、大竹さんは再び壁を指差した。そこには作品が大きくレイアウトされた作品展のチラシが貼られていて、「どうだ。俺の作品、いいだろう」という心の声がまた聞こえてきた。
「大竹さんにはずっと木の工房にいるプライドがあります。木でないと嫌だ、という価値観を大竹さんが持っていることを、言葉でコミュニケーションはほとんど取れなくても、感じとることができます」と大矢さん。
木に携わりたい、木を切りたい。彼を尊重するスタッフだからこそ、ヤスリでその思いが満たされるのではないかと思いつき、見事に大竹さんの気持ちとピタリと重なった。
細かな表現もできるようにと、細いヤスリに木のグリップを取り付けたスタッフお手製の道具も手にして、大竹さんは木のキャンバスに“絵”を描き続けている。