スポーツ選手の輝く一瞬を描く 。
<studio FLAT>所属作家の鈴木涼太郎さんは、大の野球好きだ。テレビでも野球中継を視聴するし、東京ドームにも観戦に行く。好きなのは、読売ジャイアンツと広島カープ。理由は「強いから」。高校野球では、横浜高校を応援している。理由はやっぱり、「強いから」。
そんな鈴木さんがマー君こと田中将大選手の絵を描いたとき、彼の作品制作をサポートする<studio FLAT>代表の大平暁さんは「鈴木さん、これいけるよ!」と興奮したという。それ以来、鈴木さんは雑誌を見ながら高校球児を描いたり、大谷翔平選手の高校時代・日本ハム時代・メジャーリーグ時代と成長過程を描いたりしてきた。
動いている途中の身体を絵であらわすのは中々に難しい。そのまま描くとバランスがおかしく感じられるし、整えすぎると静止画のようになってしまう。しかし、鈴木さんの描く野球選手は今にもボールを投げそうに見える。構図も絶妙だ。大平さんは「本当に上手ですよね。表情もいいんですよ」と嬉しそうに説明する。カープの選手を描いた作品5点は都内のホテルが購入し、客室の壁に飾られた。
……と、野球の話ばかりしてしまったが、取材時に鈴木さんが描いていたのは、野球選手の絵ではなく、サッカー選手の絵だ。鈴木さんは神奈川県川崎市在住。展覧会で野球選手の絵を目にした川崎市長から、サッカーチーム「川崎フロンターレ」を題材に作品を制作してほしいと頼まれたのだ。
「サッカーは好きですか?」と聞くと「わからない」とそっけなく答える鈴木さん。「本当は野球の方が好きなんだけど」というそぶりを見せる。でも、大平さん曰く、鈴木さんは自主的にフロンターレの選手のかっこいい写真をスマホで検索し、制作の日にはちゃんと誰のどのシーンを描くか決めてくるそうだ。案外、満更でもないのかもしれない。
スマホを片手にキャンバスに向かう表情は真剣そのもの。完成した絵はやはり今にも走り出しそうな躍動感があり、野球選手の絵に引けを取らない。
鈴木さんは今度、フロンターレから招待されて、試合を観戦するそうだ。選手のプレイを生で観たら、野球と同じ位サッカーのことも好きになるのではないだろうか。だって、川崎フロンターレは強いから。