川崎で生まれ育った作家が描く、生命感溢れる工場風景。
神奈川県川崎市にある障害者支援施設。毎週木曜13時から15時までは、障害のある作家を支援する<studio FLAT>によるアート制作の時間だ。十数人が思い思いに時間を過ごす中、とびきり楽しそうに絵を描く男性に目が留まった。
彼、半澤真人さんがモチーフとしているのは工場だ。写真を参考に描くが、完成した作品は写真とは違った魅力をまとう。ひとつの生命体のようなダイナミックさがあり、眺めているうちに物語が生まれそうだ。
半澤さんはお父さんから絵を教わり、支援学校の頃から絵画教室に通っていたという。<studio FLAT>の噂を聞き、2010年からこの施設に通所するようになった。
「最初、半澤さんはキャラクターの絵を描いていて、『こういうのが好きなんだな』と思っていたんですが、お母さんが『うちの子もっとすごいんです』と、写真の模写が得意なことを教えてくれたんです。半澤家の家族写真シリーズ、車やエンジンのシリーズを経て、工場にたどり着きました。半澤さんの絵のいいところが全部詰まっていて、『これだ!』と思いました」と、<studio FLAT>代表の大平暁さんは振り返る。
工場を描くようになってから、半澤さんの絵はハンカチやマスキングテープのデザインに採用されたり、日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 公募展2018にて上田バロン賞を受賞したりと、広く認められるようになった。展覧会のオークションでも作品が高額で落札されたそうだ。
ところで、川崎といえば日本の三大工業地帯のひとつ。臨海部には工場が立ち並び、夜は幻想的な風景を見せる。そうした川崎ならではの地域性が作品に表れている……と考えるのはこじつけだろうか。
「半澤さんが住んでいるところは工場エリアじゃないし、どうでしょうね。作品のモデルを川崎の工場に限定しているわけではないんですよ。ただ、ネットで工場写真を検索すると川崎のものがヒットするから結果的に川崎の工場をたくさん描いていますけど」と大平さんは冷静に話す。
でも、川崎で生まれ育った作家がこんなに見事に工場の風景を描くとなると、ついそこに関連性を見出したくなってしまう。半澤さんも、小学校の社会科見学で工場を見に行った記憶があると語る。ほらやっぱり!
それに何より、「工場の絵を描くのは楽しいですか?」と聞くと、半澤さんは満面の笑みで「楽しいです」と答えてくれた。まぁ、この質問に限らず、半澤さんは基本的にニコニコと笑っていたのだけど。