音楽を通して僕を知ってもらいたい
――DJ活動はどういった経緯でスタートしたのですか?
親の影響で音楽が好きだったので、いつも部屋で音楽を大音量で流していました。あるときヘルパーさんが「DJをやってみたら?」と提案してくれました。その人、ヘルパー以外にDJもやってたんです。それが僕のDJ活動のはじまりです。準備にはかなり時間がかかりました。音楽は好きだったのですが、そもそも「DJって何をしているのか?」が、よくわかってなかったので、そこからのスタートでした(笑)。
それから機材を揃えたり、曲のつなぎ方を覚えたり。でも時期が大学受験と重なっていたこともあり、結果としてデビューまでに2年もかかりました。丁度その頃受験勉強をしていまして。DJが面白そうだったので、受験勉強は後回しになったんですけどね(笑)。ヘルパーさんが主催するMETROでのイベントでデビューをしたのが4年前です。漫画を描いている兄(ライス–チョウ ジョナさん。彼もまたノアさんと同じ病がある)も同時期にMETROでライブペインティングをしはじめました。
――それで現在はクラブで兄弟揃って、DJとライブペインティングで出演されているんですね。これまでどれくらいDJ出演されていますか?
30回くらいですね。以前は月に一回くらいやってましたけど、去年就職してからはセーブをしているのでその代わり、主催者側としてシーンにはかかわり続けています。場所はMETROを中心に行っています。
――DJを面白そうと感じたのはなぜだったのでしょう。「音楽が好き」という理由以外になにかありますか?
もともと僕は性格的に人と交わるのが好きなタイプなんです。好きな音楽を通じて自分自身を知ってもらう、ということに魅力を感じたからですね。クラブでは日常生活の人間関係とは違うベクトルがあるように感じます。日常生活の人間関係では、僕ら兄弟の印象は「車いす」でしょう。僕は呼吸器を付けているので「喋れるんかな?」なんて思われる。そんなイメージを最初に持たれることが少なからずあるんです。クラブでは日常生活の人間関係とは違って、まず音楽を通して自分を知ってもらえますね。
――障害から、ではなく、DJとしての自分から、まず知ってもらうと。
そうですね。そこから仲良くなれたら。何も知らない人が(クラブの)フロアに入って、呼吸器で車いすのやつがDJしてたら、ビックリするでしょう(笑)。はじめは驚くかもしれない。でも、DJを聞いて「こいつ、意外にやるなぁ」って思わせたいんですね。最近は僕らを面白いと思ってくださる人が増えてきて、DJに誘ってもらったり、逆に自分たちのイベントに誘ったり。
今日のイベントに出てくれるほとんどのメンバーもDJを始めてから出会った人たちです。ここに集まる人たちは、もはや僕の車椅子とか呼吸器とかは関係なく、あくまで「DJ」や「アーティスト」として僕らを見てるんですよね。
――イベント内でのコミュニケーションが活発なんですね。では、自身の障害がXMËAのDJスタイルに影響を及ぼしていると感じるところはありますか?
普段からもそうですが、DJ の時は障害を意識はしていないんです。音楽をシェアしたい、ただそれだけなんです。(障害があるがゆえのDJスタイルを)期待されてもなんにもないんですけどね(笑)
「障害のある方は来てください」ではなく、「誰でも来てください」
――今回イベントの行われるクラブはバリアフリーではありません。車いすでクラブに入ることに困難がありませんか?
METROのスタッフは最初から僕のことを理解してくださってるので、なにも不便はないですね。ブロックを敷いて、その上に板を敷いたら車いすは通れます。実際、僕らのイベントには車いすの方もけっこう来てくれる。ずらっと車いすが並んだこともあった(笑)。
でも、「障害のある方は来てください」というわけではなくて、「誰でも来てください」というスタンスなんです。 音楽とアートが好きだったら誰でもいい。そこに障害のあるなしは関係ない。
前回は、全盲のアーティストに出演してもらったんですけど、そのことはイベントのメンバーやお客さんには僕の口からは一切伝えなかった。“たまたま全盲”ではあるけれど、素晴らしい表現者アーティストであるわけで。イベントに登場してもらうのは素晴らしい表現者であれば、お客さんと同じでほんとに誰でもOKです。
――呼吸器を付けられていますが、例えばクラブのタバコの煙が気になったりしませんか?
タバコの煙を心配してくれる人がいるんですけれど。……あんまり気になりませんね。僕の呼吸器にはものすごく分厚い高性能のフィルターが2枚も付いているので、普段からみんなよりもきれいな空気を吸っていますよ(笑)。
――XMËAのDJスタイルはどんなものでしょう?
僕のDJは好きな音楽が変わっていくということもあってスタイルがコロコロ変わるんです。最初はEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)でした。それからハウス、ディスコ、ヒップホップを経て、今はテクノになりつつある。
ただ一貫して言えるのは、最初にDJを勧めてくれたヘルパーさんに教えてもらったことを大切にしています。それは「意外性を大事に」ということ。DJはひとつのジャンルに固まってしまいがちなんですけど、常に新しいジャンルを取り入れるチャレンジをした方が前に進める、と教えてくれました。「意外性を大事に」ということを、僕は大切にしています
――DJの名前はXMËAだけではなく、ノア・ベイダー名義もあるんですね。
最初からXMËAという名前でやってるんですけど、ある人に「君は(呼吸器が)ダース・ベイダーみたいやから、DJノア・ベイダーや」と名付けられたんです。自分としては「お、おう……」という感じではあったんですが(笑)。DJノア・ベイダーでプレイすることもあるけれど、普段はXMËAという名前ですね。XMËAというのは、僕たち兄弟の病気の原因遺伝子の名に由来しています。シンプルにかっこいいので名前に使いました(笑)。
違いをアートにする。違うことに意味がある
――今夜開催される「CANVAS」は3回目です。「CANVAS」というイベント名はライブペインティングもあるからでしょうか。
イベント名には深い意味はなくて。後になって自分でも気づいたんですけど、いろんなDJやアーティストが集まって、そこにお客さんが集まって。みんな違った自分らしい「色」を持っていて、それがこのイベントを通して混じり合ってまき散らされることによって「CANVAS」という絵が完成するという意味です。
――たしかに今夜もいろんな方が登場されます。DJやアーティストだけでなく、日本茶を淹れる方がいたり。今回のサブテーマが日本の芸道の修行過程を示す「守破離」なんですね。
ええ。僕のいる街は京都だし、伝統芸能が溢れている場所なので、「守破離」というテーマを使わないわけはないと。DJやアートで自分達らしい伝統をこれから作れたら面白いんじゃないかと考えています。実は僕らのイベントには隠れたコンセプトがあります。それは「違いをアートにする」ということです。アートの世界では他の人と違うからこそ価値がありますよね。いろんなスタイルのDJやアーティスト、お客さんが集まる。それぞれ違うことに意味がある。僕はそう思います。
――DJはステージではなくフロアでされる、とのことでそこも他のイベントとは違いますね。
イギリスの有名なDJパーティー「ボイラールーム(BOILER ROOM)」のスタイルを参考にしています。ボイラールームではDJがお客さんと同じフロアに立っている。普段高いところに立つDJとお客さんの目線も同じ高さ。そしてDJはお客さんに背を向けているんです。 CANVASの雰囲気に合うはずと、メンバーのDJの方に提案していただいたこのスタイルだと僕を含めたDJ一人一人がやりたいことを存分に発揮できていると感じています。
ライブペイントもそうですがあえてお客さんに背を向けることによって、自分の内面と向き合い自分を表現することに集中できるのです。CANVASでは、こうして参加してくださるDJやアーティストとも密にコミュニケーションをとりながら、いいものをどんどん取り入れて、さらに尖ったイベントをみんなで目指しています。
――最後に、これからの目標を教えてください。
直近の目標は「CANVAS」の知名度を上げて、「僕らと一緒に楽しむ人たちを増やす」ということです。ゆくゆくは「CANVAS」自体がクラブイベントの枠を超えて、コミュニティとして大きくなっていけばいいですね。これをきっかけにコラボレーションが広がったりすると嬉しいです。お客さん同士が仲良くなったり、ここで見たアーティストの作品を買ったり。
また、これから一定の支持を得られるようになれば、追い追いはレーベルを立ち上げて、DJが音楽制作をして、アーティストがジャケットをデザインする、といったクリエイティブなサイクルを生み出せればいいなとも話しています。そして「CANVAS」がひとつのプラットフォームのようになったら嬉しいですね。