ひと口に「食器」と言い切るには少し歯切れが悪く、陶芸であって陶芸の領域からはみ出している。たとえば指で成形した跡がそのまま残っていても「ま、いっか」と、それも味にしてしまう軽やかな「SHOKKI(ショッキ)」は、実際誰がつくっているのか、メンバーは何人いるのか、どこに拠点があるのかなど明かさず活動している。そんな「SHOKKI」と2つの障害者支援施設とが“であった”のは、1年ほど前のこと。この施設で働いている小林拓馬さんのある思いがきっかけを作ったのだという。昨年夏は、〈デイセンターさくら〉と制作した作品を岡山県内で展示。そして現在、〈桑野フレンドリーハウス〉に場を移して、新しいシリーズを制作している。成形作業が終わり、焼き入れ前の最後の色付け作業を行うという日に施設を訪ね、「Plan P」と名付けられたこのプロジェクトについて話を聞いた。
「なにか面白いこと」を現実化する
――このコラボレーションは、小林さんから「SHOKKI」に持ちかけて始まったと聞きました。それは、どんな思いからだったのでしょうか?
SHOKKIディレクター(以下、SHOKKI):2〜3年前になりますよね。小林くんが色々と悩んで悶々としていたときで。
小林拓馬(以下、小林):いや、ネガティブな悩みではないんですよ。自分が働いている施設の利用者が、社会との接点を増やすにはどうすればいいんだろうと、ずっと模索していたんです。最近では、アート活動に特化した障害者施設も増えてきて外に開かれている感じがありますけど、僕が働いているところは普通の生活介護事業所なので、そこでレクリエーションの時間に絵を描いたりはしているけれども、それを発表したり展覧会をするというようなものではないんですね。だから、意識的に外との接点を生みだすようなことが何かできないかと。ここは通所施設なので入所施設ほどではないにせよ、意識しないと利用者も同じ職員としか接していないという単調な日々が続いてしまうんですよね。ただ、利用されている方の中には、同じことを繰り返すことで安心するという性質の方もいるのでルーティンの仕事もとても大事なのですが、たまには外からの刺激もあってもいいのではないかと。それに、僕自身も飽き性なところがあって。モチベーション高く働き続けていくためにも、何か自分にとっても刺激になる面白いことがしたかった。それで、ある縁があってSHOKKIに話を持ちかけたんです。
SHOKKI:でも、「何かやらない?」と最初に言われたときは、いろんな人とコラボレーションしてみたいという構想段階で、実際には始めていない時期でした。障害のある人と何か一緒に作ってみたいなと興味は抱いたものの、どんな風にコラボレーションを紹介していけばいいのか、または、作るからには最終的には作品として販売したいという気持ちがあったので、その時点では制作の方法が定まらなかったんですよね。そんな段階を経て、SHOKKIもいろんなアーティストとコラボレーションするようになり、作品への落とし込み方、販売の仕方がだいたい掴めてきたので具体的にやってみようと昨年ようやく話が進んでいきました。
――施設で働いている若い人の中には、小林さんのように外部のアーティストやクリエイターと何かやってみたいと思っている人は少なからずいるんじゃないかなと思います。そして逆に、実はアーティストやクリエイター側にも障害のある人たちに興味はあっても出会うきっかけがない、入って行きづらいという人もいるんじゃないかと思うんです。そうした意味では、小林さんのようにドアを開けてくれて、接着剤になってくれる人がいるといいですよね。
実際には、このコラボレーションをやってみたいと施設長や他の職員の方たちに初めに話したときはどんな反応でしたか?
小林:2つとも同じ法人内の施設で、僕は今〈桑野フレンドリーハウス〉で働いていますが、その頃は〈デイセンターさくら〉の就労支援の方にいたんです。でも、就労ではなく生活介護の方が組み込みやすいかなと思って、生活介護の職員の方に「SHOKKIとは」という説明から始めて。最初は「え?」って、ハテナが飛び交っていましたけど、よくわからないながらも受け入れてくれました。
SHOKKI:名前も顔も明かしていない、素性がわからないという、得体の知れない相手ですからね……断られるだろうと思っていたんです。でも、もし断られたら、施設としてではなくて、小林くんがつながりのある障害のある方、個人と何かやれたらいいのかなと思っていました。ところが、わりとすんなり受け入れてもらえてトントン拍子に決まっていった。小林くんへの信頼性というのもあるのでしょうが、こんなにもフレキシブルなところなんだと思って。意外でした。
――実際には、生活介護の余暇活動に組み込んだのでしょうか?
小林:新たに設けました。もともと「地域活動」という時間があったので、その時間に充てました。大人数なので、実は一つの活動を組み込むのも調整が大変で……。利用者さんには、3カ月で1クールのシーズンごとに、どんな活動がしたいかと希望を聞くんですね。そこから振り分けていく。なので、1年のうちに3カ月しか表現活動しない人もいる。この人は素敵な絵を描くからといって、その人が1年間絵を描き続けられるのかというと、そういうわけでもないんです。ある程度、平等に機会が与えられなければならない。施設の方針としては、いろんな活動を提供する、ということが主眼になっていますから。
ゴールを定めず、ジャッジしないこと
――SHOKKIはそれまで障害のある人と接したことはあったのですか?
SHOKKI:ありました。個人的な話ですが、母が特別支援学校で美術教員として働いていたんです。まだ彼らを障害者だと認識するようになる前に、彼らの作品と出合っていて。なんだかすごい絵だぞと、子どもながらにゾクゾクした記憶があります。
――SHOKKIのコラボレーション相手としては、相性がよさそうですよね。SHOKKI自体(いい意味で)陶芸という概念のボーダーライン上にあるような表現活動だと思うので。
SHOKKI:そうですね。だからか一緒に何かが作れたら、思いもよらないところに行けるかも知れないと直感的に思ったんだと思います。
――実際にはどういった方法で制作したんですか?
SHOKKI:〈デイセンター・さくら〉で、始めて粘土の成形をする日は、事前にあれこれ考えてたんですよ。外の人間と接する機会がそれほどないという施設に、いきなり入っていって受け入れられるのだろうか、全くコミュニケーションが取れないんじゃないかと思っていたら、実際にはそんなことはなくて。最初に自己紹介したときは誰も聞いてなかったですけど。
小林:それよりみんな、目の前に置かれた粘土が気になっちゃって(笑)。
SHOKKI:そう(笑)、でもすぐにその場に馴染んだし、作り始めると皆それぞれに意思を感じることができました。言葉を話さない人も多くいましたが、こうしたいんだろうな、こう作りたいんだろうなというのは、なぜか言葉がなくてもよくわかるんです。でも手伝いはしません(笑)。見守るだけ。〈デイセンターさくら〉のときは、成形を少し手伝ったり、色付けはこちらでやったりしたんですが、それも任せる方がもっと面白いものになると思った。だから、〈桑野フレンドリーハウス〉では一切手出しをせずに進めてきました。
小林:職員たちは、SHOKKIを外部から来た先生として見ているんですけど、何を教えるわけでもないので、利用者たちはアシスタントだと思っているんじゃないかな(笑)。
SHOKKI:そうですよね、雑務をする人……。
――そうすると、もはや共同作業ではないという。
SHOKKI:昨年20組のアーティストとコラボレーションしたのも、レーベル単体での活動とは反対に、SHOKKI自体の作家性を消したかったんです。“レーベルとして存在する”ということを目標にしていたので、今回に限らず、他のコラボレーターのときも極力相手にゆだねるように作っていて、結果としてサポート役にまわる場合もあります。それと大抵、最初に「こういうものを作りましょう」というゴールを設定しない方が、結果的に面白いものが出来上がるんですけど、障害者事業所は、それが一番いい形でできる相手だと思いました。
――そうして焼きあがったものを見たときは、いかがでしたか?
SHOKKI:いいも悪いもジャッジしないんです。もともとSHOKKIは出来上がってくるものに対してほとんどジャッジしないので。「これはどう見ればいいんだ?」という前衛的なものはたくさん出来上がりました。陶芸も経験を重ねていくと、「こんなに分厚いと焼きづらいな」と思って無意識に焼きやすい形にしてしまうんですけど、彼らにはそんな考えもないので気持ちが良かった。彼らの自由さを羨ましいと思う瞬間もありましたけど、どんな相手でも比較するのは意味のないことだと諦めます。
価格は、“作品”としての指標
――〈デイセンターさくら〉との作品は、岡山県内で展覧会もやりましたよね? そのときは、作者も観に来られたんですか?
SHOKKI:もともとコラボレーションするのに展示も込みで考えていました。作者も観に来てもらうことを考えると、岡山県内で展示した方がいいだろうと場所を探して。
小林:職員も観に来てくれて好評価でしたよね。
SHOKKI:でも値段に驚いていましたよね。
小林:そうですね。作って売るという流れ自体が、施設の中で定着していないので免疫がないというか……。SHOKKIは、初めから販売すると言っていて、ぜひそうしましょうと進めてきたんですけど、結局〈デイセンターさくら〉には前例がないということでお金を納めない方向でまとまりました。なので、〈桑野フレンドリーハウス〉では、最初にパーセンテージを決めて、売れたら事業所の分の売り上げを何かしらの形で還元していくということになって。たとえば、画材を買ったり、おやつを買ったり。
――制作した作者自身にお金を渡すことは難しいんですか?
小林:参加していない人もいるので、平等ではないという部分が大きくて。それならお金ではない何か物品の方がいいという結論に至りました。でも、いずれにせよ、金銭は絡んだ方がいいなと思った。こうしたことがもしかしたらお金に変わるかもしれないという気づきになるし、そうした事例が何個も生まれていくことが、施設全体の活気を生み出していくんじゃないかと思うんです。
――さっき職員の方が「値段に驚いた」というのは、高いということですか?
SHOKKI:そうですね。想像していたよりあまりにも高すぎたみたいで、言葉を失ってました。よく福祉事業所で売られているような商品って、200〜300円の安価なものが多いじゃないですか。その何十倍の値段だったので見慣れない数字に驚いたんだと思います。でも200〜300円では絶対に売りたくなかった。コラボレーションで作品として売る以上は、きちんと価値づけをしたかったんです。
小林:実際にそれで買ってくれる人もいましたから、いいざわつきだったと思います。
――先ほどの制作時間では、〈桑野フレンドリーハウス〉の管理者も好意的に手伝われていて、「今の若い人で自主的に企画を提案するなんて、小林は珍しいタイプで頼もしい限りです。これはバックアップしてやらないと」とお話しされていました。これからやってみたいことはありますか?
小林:今回の取り組みは、僕の中でも施設としても大きな一歩になりました。これを機に、いろんな外部の人と関わりを持つ「Plan P」というプロジェクト名もつけましたし、8月には〈天神山文化プラザ〉という場所を借りて、画家の方と違う試みを企画しています。これは、僕だけではなく福祉職員何人かでやることになっていて。他にもやってみたいことが膨らんでいるところです。