人は誰もが自分という“物語”を生きていますが、それは幼い子どもも同じです。生きることが困難な現代において、子ども時代にたくさんの物語に触れ、その先にある“幸せな結末”“幸せな未来”のイメージを自分の中にたっぷりと取り込むことは、必ずやその子の助けとなるはずです。そんな物語をご紹介します。
世界各国の物語
世界各地の昔ばなしや創作物語のほか、手遊びやわらべうたを豊富な挿絵とともに収めたシリーズ。むかし、ある夫婦が3人の女の子を森に捨てると、そこには人食いの大男が。殺されそうになったところを、一番年下のモリーの機転で逃れる話(『エパミナンダス』所収「かしこいモリー」イギリスの昔ばなし)、カラスに変えられた7人の兄さんたちを救おうと、妹が太陽や月、星のもとを訪ねる旅に出る話(『だめといわれてひっこむな』所収「七羽のカラス」グリムの昔ばなし)など。シリーズは、『エパミナンダス』『ついでにペロリ』『だめといわれてひっこむな』など全10冊。いずれも、東京子ども図書館の職員がお話を覚え、子どもたちに直接語りかける活動を通して、選び抜かれた物語ばかりです。どの子にも当てはまる普遍的なメッセージが込められている昔話から、いろいろなタイプの主人公の冒険に身を委ねてほしいものです。
「愛蔵版おはなしのろうそく」シリーズ(東京子ども図書館)
違う国に暮らす子どもたちのこと
『ルーマニア―アナ・マリアの手づくり生活』から、『ウズベキスタン―シルクロードの少年サブラト』まで全36巻の写真絵本シリーズです。長倉洋海、小松義夫、石川直樹ら第一線で活躍する写真家33名が、各国1人の子どもを密着取材。家庭や学校での様子を追った写真と平明な文章で、日々の暮らしや行事、風物等をひとつの物語のように伝えています。被写体の子どもは10歳前後。親しく交わった写真家ならではの打ち解けた表情が印象的です。色鮮やかな写真の数々を、アルバム風にレイアウトしているので、仲良しの子の家をのぞくような感覚で読み進めることができます。国も文化も家族構成も親の仕事もさまざまな、同世代の子どもの日常を知ることで、世界の国々や人々の多様なあり方に触れてもらいたいと思います。
「世界のともだち」シリーズ(偕成社)
長い時の流れを物語に
静かな田舎の丘の上に建つ「ちいさいおうち」を主人公にした、1942年刊行のアメリカの古典的絵本です。“ちいさいおうち”は、移り変わる季節を楽しみながら、幸せに暮していました。時々、遠くの町のあかりを見て、「まちって、どんな ところだろう。まちに すんだら、どんなきもちが するものだろう」と思っていましたが、年月が経つにつれ、開発の波にのみこまれ、気がつけば、大都会のまん中に、ひとり残されてしまいます……。四季の変化を細やかに描いた絵が美しく、時の流れという目に見えないものを、幼い子にも分かるように見せてくれます。私自身、幼い頃に繰り返し母親に読んでもらったときの静かな感動が、今でも深く心に残っている絵本です。ぜひ、大人が声に出して、身近な子どもに読んであげてほしいと思います。
バージニア・リー・バートン[作・絵]、石井桃子[訳]
『ちいさいおうち』(岩波書店、1965年)