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だんだん出てきたキュニキュニ
ここは京都市伏見区にある〈アトリエやっほぅ!!〉。3階にあるそのアトリエの特等席、と言えそうな京都タワーを望む窓に向かってイーゼルを立てるアーティストがいる。木村全彦さんは、19名が所属するこのアトリエを代表する存在だ。2018年に入ってからはすでに東京、山梨、滋賀、そしてスウェーデンの展覧会からのオファーがあり、作品展示を行っている。
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スタッフの中島慎也さんにお聞きすると、木村さんは2008年のアトリエ発足時には陶芸を行っていたそう。しかし「陶芸をやっていたときに、その下絵を描いていたんです。そこから発展していって絵だけを描くようになりました」。そして、翌2009年からは数々の展覧会に参加し、次々と賞を獲得するようになる。
この日は奈良の薬師寺、その西塔を写真を見ながら描いていた木村さん。まずその作品の歪な迫力にはギョッ、とするほどのインパクトがあるけれど、近づくと目に入ってきたのは細かく連続して描かれたギザギザ。描かれた、というよりは打ち込まれた、と言った方がいいかもしれない。この色鉛筆を使ったギザギザは木村作品の特徴で、ラテン語で“くさび”という意味の“キュニキュニ”と呼ばれ、この西塔にも隙間を埋めるように刻印されている。
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まだキュニキュニが現れていない初期作品。木村さんはきっと赤身が好み。
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スタッフの松岡芽衣子さんいわく、キュニキュニは「最初に絵を描き始めた頃にはなかったんですけど、だんだんと出てきたんです。ある紙にプリントされていた柄から影響を受けたのかもしれません」とのこと。木村さんはなにかを掴んだのか? 最近では、以前はなかった静物画にもこのキュニキュニが現れるようになってきているそうだ。
そばにあった、先日完成したというジャックダニエルの広告写真を見て描かれた作品(2013年制作)もそうだが、張り巡らされたキュニキュニ文様はまるで作品全体を支える筋肉のようにも見えてくる。と同時に風景を多面体のパラレルとして、これでもかと浮き上がらせているようでもある。ぜひとも実物を見てほしいところだけど、ともかく濃厚な色使いとも相まって、作品をいっそう強固なものとしているのは間違いない。
写真の色を追いかけて
描かれていた薬師寺・西塔は70%ほどが完成しているようだったが、基礎のお堂部分がドカーンと画用紙の半分以上を占めている。そのバランスが歪で、迫力の理由でもあるけれど、なんとも大胆なフォーカス。松岡さんが推測するに、それは木村さんが写真の色を追いかけている結果なのだという。確かに、そう聞くと色を塗るための枠としてキュニキュニが描かれているようにも見えてくる。「それで結果的にサイズ感を無視することになって。全体の輪郭を追いかけるときもあるんですけど、あとから色を付けていくと一部が大きくなって画用紙からはみ出てくる。最近は特に(画用紙に)入らなくなってきましたね」
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キュニキュニはそこにスペースがある限り、ぎりぎりまで描かれる。
濃い作風にも関わらず、ということもないかもしれないが、とても軽やかに制作されている木村さん。話しかけてみると、言葉はないが笑顔でこちらを見てくれた。見晴らしの良い特等席のせいか、木村さんは落ち着き、迷うことなく手首をくいくいと動かしている。この様子だと今後、彼の作品を見られる機会がさらに多くなるかもしれない。ちなみにキュニキュニはどんどん大きくなってきているそうだ。
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