タイトルは『人類崩壊』『世紀末』など
〈西淡路希望の家〉の美術部は夕方16時30分からスタートするのだが、それより早く部室に登場。すぐさまルーズリーフを取り出し、猛烈に描き始めた人物がいた。スタッフの金武さんに聞くと、いつものことらしい。どれだけの締め切りを抱えているのか。そんな描きっぷりだ。
黒田勝利さんはこの美術部に通って7年。描いているのはずっと漫画でそのタイトルは『人類崩壊』『世紀末』などと穏やかではない。ひとつの作品が完成するのに2カ月ほどかかるそうだが、分厚い作品の中身を見せてもらうと、生首が並び、ガイコツに矢が刺さり、そして丸ちゃん(施設長の丸山泰典さん)が無残な姿となっていたり。殺される登場人物のほとんどは身近な人物だそうだが、個人的な恨みから、ではないようだ。とはいえ「そんなことはないよー」と残虐シーンを描きながらニヤニヤと語る姿が逆に怖かったりもするが、ともかく2時間、部活動が終わるまで彼の手が止まることはなかった。途中、一度だけ我々取材チームに紙を差し出し、「ここに名前書いて。お願いしまーす」と声を掛けられたが、きっと今頃はしっかり殺されているだろう。
黒田さんの漫画にはネームもラフもない。ほとんどが激しい描き文字のようなコマの嵐で展開が分かりかねるものも多いけれど、それよりなによりこのバリバリの疾走感がたまらない。執筆を見ていると頭の中のイメージに手が追いつかない様子だ。そして、驚いたのは物語の結末から描くこと。いわく「考えると時間がかかってしまうから。でも最初のストーリーは忘れない」。想像するに、それは圧倒的に現在形というか、新しいイメージの方に手が動いてしまう瞬発力というか。この疾走感を眺めていると理解できるような気がしてくる。
正義が必ず勝つとは限らへん
現在執筆中の漫画はどんなストーリーなのか?と黒田さんに尋ねると「何人かは生き残って、何人かは亡くなる話」という。描かれる漫画は主にバトルもの、戦国もの、そして学園もの(もちろん恋愛系じゃない)で当初、漫画は「テキトーだったけど最終的には物語になった」という。物語は「仕事中(清掃の仕事)に浮かんでくる空想」なのだそう。
「ハッピーエンドはない。ハッピーエンドは興味ない。僕は破壊者やから。平和主義者は(美術部で隣の席の)中井(孝)くんです。お花とかそういう絵を描くのは中井くん。(漫画の中で)生き残るのはいつも中井くんしかおらへん。平和の神様やから。中井くんは天使やから。でも僕は悪魔の神様。それの方がかっこいい。正義が必ず勝つとは限らへんし」
最後にシビれたのは自分の漫画を「人が見るとかは考えたことがない」のひとこと。創作に邪念無し。そしてアートが持つキャパシティは鑑賞側の都合とは無縁、ということをあらためて思い知らされたのだった。鬼才は部活が終了する18時30分になるとすぐに帰っていった。