障害者支援施設で日々生み出されるものは、固有の経験が映し出される生の結び目であり、その人たちがこの世に存在したことの証です。放っておけばいつのまにか忘れられ失われてしまうかもしれない、小さな「声」。それらを記録することで、自分とは異なる人たちの多様な価値観や想いを共有するきっかけにつながるのではないでしょうか。本プロジェクトのデジタル・アーカイブ設計者である須之内元洋さんをモデレーターに、全国各地でさまざまな「声」の聞き取りを通じ、他者の経験や記憶に向き合っている細谷修平さんと瀬尾夏美さんをゲストに迎え、生きていることを記録し伝達することについて考えます。
みずのき美術館(京都府)、鞆の津ミュージアム(広島県)、はじまりの美術館(福島県)は、名館の母体となる障害者支援施設で生み出された作品や創作物の調査を行い、デジタル・アーカイブとして記録・保存・公開するプロジェクトに取り組んでいます。これまでも三者三様の「アーカイブ」を探りながら話し合いを重ねてきましたが、今回はよりオープンな議論ができる場とし、2名のゲストを迎えた座談会を開催いたします。
ゲストスピーカー
細谷修平 :美術・メディア研究者/映像作家
1983年生まれ。アーティストの活動に関わる聞き取りや調査、記録を通して、アート・ドキュメンテーションを行っている。主には 1960年代の藝術と政治、メディアを研究テーマとして、映像やテキストによる記録を通した活動を展開する。東日本大震災後は仙台に在住し、記録と藝術についての考察と実践を継続している。
ゲストスピーカー
瀬尾夏美 :画家/作家
1988年東京都生まれ。宮城県在住。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。2012年より映像作家の小森はるかとともに岩手県陸前高田市に拠点を移す。2015年、仙台市で土地との協同を通した記録活動を行う一般社団法人 NOOK(のおく)を立ち上げる。
モデレーター
須之内元洋 :本事業デジタル・アーカイブ設計者
1977年生まれ。札幌市立大学デザイン学部講師。ソニー株式会社、サイボウズ・ラボ株式会社勤務を経て現職。メディア環境学、情報科学、音の環境学の分野で研究を行うほか、デジタル・アーカイブをはじめとした各種デジタルメディアの設計・開発、メディア・アートの実践を行う。
日本財団アーカイブ支援プロジェクト
障害者支援施設で日々生み出されるものを、記録し保存するため、3 つの美術館が取り組んできたプロジェクト。(「全国の作品調査に向けたアール・ブリュット美術館におけるアーカイブ構築」事業/監修・設計=須之内元洋)
みずのき美術館
日本画家の故・西垣籌一が指導に関わったことで知られる「みずのき」の絵画活動。そこで生まれた膨大な数の作品をアーカイブ。「みずのき」が歩んだ約 60 年を時系列でまとめ、そこから作家や作品を探すこともできる。2016 年には収蔵庫も完備。(2014-)
鞆の津ミュージアム
社会福祉法人創樹会を利用する方が制作した作品や、日常生活の一部として生み出される創作物など多様な表現をアーカイブ。表現の背景にある生活史もあわせて記録することで、作家の生き方に多面的な光をあてる。(2017-)
はじまりの美術館
社会福祉法人安積愛育園を利用する方の創作活動を支援するプロジェクト「unico(ウーニコ)」から生まれた作品、約650点をアーカイブ。作品を「関係性から生まれたもの」として捉え、SNSを活用し作品にまつわるエピソードも記録。(2017-)