「すべての人に人形劇を」とのコンセプトで活動するデフ・パペットシアター・ひとみは、劇団名にもあるとおり、deaf(ろう者)と聴者が共に創作から公演活動まで行う人形劇団です。1980 年の立ち上げ以来、年齢や性別、母語、宗教の違いや身体のハンディを超えて、すべての人が共に楽しめる人形劇の創作・公演活動を続けてきました。劇団創立以来常に向き合ってきた「共生」をテーマに描きます。
村はずれの井戸に棲む一匹の河童と村の人々とのドラマ。火野葦平 が書き溜めた34編の河童の物語「 河童曼陀羅 」をベースに、河童と人間との物語をダイナミックに描きます。完全には交じり合うことのない人間と河童との間には、時に切ない行き違い、さまざまなドラマを生みます。そのドラマを通じ、共生とは何かを見つめます。美しく響く理想の言葉「共生」ではなく、共に生きる世界は何かを問う作品です。
脚本・演出は 立山 ひろみ。「表現の片鱗 でしかないコトバの不自由さ」という問題意識から、身体表現、音楽、映像などの要素を台詞 と等価値に位置付け、新たな表現に挑戦し続ける 気鋭 の演出家です。立山にとっては初の人形劇演出。フレッシュな視点で、人形だからできる表現の多彩さやドラマ性を生んでいます。
人形美術は、陶芸をルーツにやさしさとポップさを合わせ持つ独自の世界感が注目される 本川東洋子 。さらに、日本を代表する人形劇団ひとみ座のアトリエチームが人形製作を担当。水神から人間に悪さを働く存在まで、見方や立場によって異なって描かれてきた河童の人形は、豊富なアイデアと高い技術力をもとに、動きや角度、観る人の想像によっていろいろなものに見える工夫を施しました。
人形だけでなく人形遣い自身も生身の演技者として舞台上で表現する本作では、舞踏家の 麿赤兒 に師事し、現在は世界各地でオリジナル作品を発表し国際的評価を得る 向雲太郎 が振付を担当しています。「踊りとは何か? 新しい舞台表現とはどういうものか?」と問いながら挑み続け、物体である人形と人間の肉体との共生をステージ上で見事に実現させました。
大胆かつユーモアある工夫いっぱいに国内外のさまざまな舞台作品を手掛ける舞台美術家の 大島広子 、多くのベテランアーティストからも信頼を得る音楽家の 佐藤望 といった、各分野の多彩な才能がこの作品に集結。対話やワークショップを重ね、互いの感性を生かし合いたどり着くことのできる、新たな舞台芸術の創造に挑んでいます。
あらすじ:
村はずれの井戸には河童が住んでいました。
河童は、コイやフナ、カニやカエル、ゲンゴロウとプカプカ泳いだり、子ども達と相撲とったりする、のんびりした毎日を過ごしています。
そんな河童とある少女の出会い。
河童の周りには、子どもたちの笑顔が溢れ、いつまでもそんな時間が続くと思っていたのにー。
村に干ばつが続いた年、村人たちはそれを河童のせいにします。
河童は井戸の底で考える。
人間たちの行動が分からない河童は、井戸の底で、身体中をかきむしりながら、一体どうしてこんなことが起こるのだろうと考えて……。