2020年に開催された「ライフ 生きることは、表現すること」展は、作品を通して「弱さ」の中にある、私たちが大切にすべき価値観について問いかけるものでした。あれから4年。私たちは、様々な地震や災害、また地球規模での新型コロナウイルス感染症を経験した時代に生きています。
そして、世の中は、さらに答えのない、予測不能な時代に向かっています。続編となる本展では、孤独や不自由さ、また容易に答えの出ない、矛盾に満ちた状況に向かい合いながらも、喜びや希望を忘れず、未来に向かって制作を続けてきた表現者や、それを支える人たちの姿までを含めて紹介されています。
出品アーティスト
分身ロボット OriHime、荒木聖憲、曲梶智恵美、駒田幸之介、内野貴信、東 勝吉、齋藤陽道、石川真生、キュンチョメ、レインボー岡山
展覧会をめぐるキーワードと概要
障害 / 不自由 / 外出困難 / ロボット / テクノロジー / 就労 / アール・ブリュット / ちぎり絵 / 編み物 / 絵画 / 家族 / 支援する人 / 木こり / 老人ホーム / 孤独 / 水彩画 / 故郷 / 仲間 / ろう者 / 写真 / 手話 / 子育て / 沖縄 / 琉球 / 戦争 / 基地 / ミックスレイシャル / ウチナーグチ / 叫び / ビデオ / 性別違和 / 名前 / ユーモア / 虹 / 希望 / 未来…
離れていてもつながり、働く
本展では、まず初めに分身ロボットOriHimeを紹介する。吉藤オリィ(よしふじ・おりぃ 1987年-/東京都在住)が開発したOriHimeには、カメラやマイク、スピーカーが搭載され、外出困難な人であっても、まるでそこにいるかのようにコミュニケーションすることができる。会場内では土日祝の午後を中心にパイロットと呼ばれる操作者が、遠く離れた場所から実際にOriHimeを動かして、来場者とコミュニケーションを取ったり、OriHimeの作品解説を行うなどして、美術館のスタッフとして働くことを実現する。
*OriHimeは株式会社オリィ研究所の登録商標です。
私という存在の証明
続いて、アール・ブリュットの4人のアーティストに注目する。自身の思いをのせた緻密なちぎり絵で風景や想像の世界を描く荒木聖憲(あらき・みのり 1994年-/玉名市在住)、毛糸などのモチーフを重層的に組み合わせ心のありようを紡ぐ曲梶智恵美(まがりかじ・ちえみ1981年-/熊本市在住)、紙の幅や裏表を自由に飛び超えて心地よいリズムにのせてペンを走らせる駒田幸之介(こまだ・こうのすけ 1989年-/熊本市在住)、日常の体験や発見をポップで明るい色彩と明快なフォルムで描く内野貴信(うちの・たかのぶ 1974年-/熊本市在住)である。熊本で「アール・ブリュット」という言葉が広く知られるようになったのは、今年で10周年を迎え作家の発掘や支援を続ける「アール・ブリュット パートナーズ熊本」の存在が大きい。家族や施設スタッフとともに彼・彼女らの表現を後押しし、成長を見守ってきた多くの人たちの姿が作品の陰に滲む。
素晴らしい孤独がここにある
東勝吉(ひがし・かつきち 1908-2007年/大分県で没)は、大分で長く木こりとして働いた後、由布市の老人ホームに入所していた。これといった趣味もなかったが、83歳のある日、絵の具セットを贈られたことをきっかけに、カレンダーや新聞の切り抜きを見ながら由布院の風景を猛然と描き始め、99歳で亡くなるまでの16年間で100点以上の水彩画を残した。その東の作品に感銘を受けた由布院の人々は、NPO法人由布院アートストックを立ち上げ、作品の保存や展示活動に取り組んでいる。例え無名で孤独であったとしても、誰かの心をゆさぶる作品を描くことができ、何かを始めるのに遅すぎるということはないことを、東の作品は教えてくれる。
音のない世界から見つける光
齋藤陽道(さいとう・はるみち 1983年-/熊本市在住)は、先天性の感音性難聴をもって生まれ、発音指導などを受けながら一般の小中学校に通っていたが、周りのコミュニケーションについていけず孤独な日々を送っていた。その後、進学した石神井ろう学校で手話に出合って以降、手話の持つ世界の奥深さに魅了され、「ろう者」として生きていくことを決め、写真家としての活動を始める。本展では、齋藤が出会った障害のある人や、そうでない人の姿、そして生き物や自然の風景などを、等しく透明感あふれる眼差しで切り取った代表作「感動」シリーズを軸に、その作品世界を紹介する。
生きる限り沖縄を撮り続ける
石川真生(いしかわ・まお 1953年-/沖縄県在住)は、WORKSHOP写真学校東松照明教室で写真を学び、70年代以降、沖縄をめぐる人々に密着しながら作品を制作してきた。被写体となる人々と正面から対峙し、立場を越えて取材することで、沖縄の生々しくかつ複雑な現実を写しだす。
本展では、米軍基地勤務の黒人兵のためのバーで働きながら同僚の女性たちを撮影した初期の代表作「赤花 アカバナー 沖縄の女」のほか、「沖縄芝居」「港町エレジー」「ヘリ基地建設に揺れるシマ」「大琉球写真絵巻」(Part1)等のシリーズを展示する。
私が決めた 私の名前を 声枯れるまで 大きな声で叫ぼう
キュンチョメ(ホンマエリ 1987年-、ナブチ 1984年-/神奈川県在住)は、制作行為を「新しい祈り」であるととらえ、世界各地でそこに関わる人々と向き合い、時にユーモアを交えながら、様々な社会問題をテーマとした作品を発表してきた。近年はフィリピンやハワイに滞在し、圧倒的な自然や多様な価値観に触れることで更に表現の幅を広げている。本展で紹介するビデオ作品《声枯れるまで》(2019年)では、出生時の性別に違和感を持ち、自らに新たな名前をつけた人たちとキュンチョメが対話を重ねる様子が描かれる。共に時間を過ごしながら、その新しい名前を世界に響きわたらせるために、一緒になって何度も何度も、声枯れるまで叫ぶ。
虹をかける人
この世には「虹をかけること」を仕事にする人がいる。
レインボー岡山(1962年-/阿蘇郡在住)は、熊本市現代美術館の開館記念展「ATTITUDE2002」にレインボーマンとして登場して以来、20年以上、様々な場所に虹をかけ続けている。その虹は、風船やビニール製のテープなど、安価な材料を用いて岡山がデザインを行い、その場に集まった人たちが互いに協力し合うことで、ダイナミックな風景が出現する。
空にかかる虹は、あらゆる人に等しく開かれている。そして私たちには、例え小さくとも世の中に虹をかけることのできる力が備わっているということを、レインボー岡山は気づかせてくれる。
関連イベント
・分身ロボット OriHime パイロットとお話してみよう
パイロットは会場内で土日祝の下記の時間、OriHimeの解説などを行います。多様なバックグラウンドを持ち、様々な場所からオンラインで美術館スタッフとして働くパイロットと交流してみませんか?
日時:11月2日(土)、11月3日(日・祝日)、11月4日(月・振替休日)、11月9日(土)、11月10日(日)、11月16日(土)、11月17日(日)、11月23日(土・祝日)、11月24日(日)、11月30日(土)、12月1日(日)、12月7日(土)、12月8日(日)
各日とも午後1時から午後4時
※日時は予定です。詳細は美術館にお問合わせ下さい。
場所:展覧会場内
料金:要展覧会チケット
・レインボーワークショップ
レインボーマンと一緒に虹のトンネルをつくろう。
日時:11月3日(日)午前11時から午後4時(午後1時から午後2時まで休憩)、
11月9日(土)午前11時から午後4時(午後1時から午後2時まで休憩)、
11月17日(日)午前11時から午後4時(午後1時から午後2時まで休憩)、
11月30日(土)午前10時から午後3時(午後0時から午後1時まで休憩)
場所:展覧会場内
料金:要展覧会チケット
講師:レインボー岡山(アーティスト)
・齋藤陽道 筆談トーク
齋藤陽道さんと担当学芸員が作品について筆談で語ります。
日時:11月3日(日)午後2時から午後3時30分
場所:ホームギャラリー
料金:無料
定員:80名(先着順)
講師:齋藤陽道(写真家)
・オープンアトリエ
アール・ブリュットのアーティストが公開制作を行うほか、作品の体験をすることができます。
日時:11月9日(土)午後1時から午後3時 *公開制作
場所:アートラボマーケット
料金:無料
講師:荒木聖憲、曲梶智恵美、駒田幸之介、内野貴信(予定)
・ギャラリーツアー
担当学芸員が展覧会についてわかりやすく案内します。
日時:11月2日(土)午後2時から午後3時、
11月17日(日)午後2時から午後3時(11月17日は手話通訳付)、
12月8日(日)午後2時から午後3時
場所:展覧会場内 *集合場所:展覧会場入口
料金:要展覧会チケット、予約不要
・一点じっくり鑑賞会
ファシリテーターと会話をしながら、じっくりと1つの作品を観てみましょう。
日時:11月4日(月)午後1時30分から午後2時30分
場所:展覧会場内 *集合場所:展覧会入口
料金:要展覧会チケット、予約不要