イントロダクション
モントリオール世界映画祭最優秀監督賞、キネマ旬報ベスト・テン1位ほか数々の賞に輝く『そこのみにて光輝く』(2014年)、『きみはいい子』(2015年)などの作品で国内外にて高く評価される呉美保(オ・ミポ)監督が9年ぶりに送り出す長編監督作品。俳優・吉沢 亮を主演に迎え、きこえない母ときこえる息子が織りなす物語。
宮城県の小さな港町、耳のきこえない両親のもとで愛情を受けて育った五十嵐 大。幼い頃から母の“通訳”をすることも“ふつう”の楽しい日常だった。しかし次第に、周りから特別視されることに戸惑い、苛立ち、母の明るさすら疎ましくなる。心を持て余したまま20歳になり、逃げるように東京へ旅立つが…。
原作は、コーダ(注)という自身の生い立ちを踏まえて社会的マイノリティに焦点を当てる作家・エッセイスト、五十嵐 大氏の自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」(幻冬舎刊)。脚本は、『とんび』(2022年)、『正欲』(2023年)、『ゴールド・ボーイ』(2024年)などの注目作を手掛ける港 岳彦。
リアルな現実のなかに見出す希望の光を、人と人との繋がりや家族の姿を通して描き続ける呉美保監督。本作が、繊細に、点描のように紡いでいくのは母と子の物語、そしてひとりのコーダの葛藤と明日へと繋がる心の軌跡。やがて母への想いが静かに満ちる、心に響く映画が誕生した。
注:コーダ(CODA):Children of Deaf Adults/きこえない、またはきこえにくい親を持つ聴者の子供
出演
吉沢 亮
1994年2月1日、東京都出身。主演映画『リバーズ・エッジ』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞、一人二役を演じた映画『キングダム』で第62回ブルーリボン賞助演男優賞、第43回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞などを受賞。大河ドラマ『青天を衝け』(NHK)で主人公・渋沢栄一を演じる。2023年には映画6作品『ファミリア』、『東京リベンジャーズ2』2部作、『キングダム 運命の炎』、『かぞく』、『クレイジークルーズ』が公開されるなど目覚ましい活躍を続けている。本作で初めて呉美保監督とタッグを組む。
忍足亜希子
1970年6月10日、北海道出身。1999年に映画『アイ・ラヴ・ユー』で日本初のろう者主演俳優としてオーディションで選ばれデビュー。同作で第54回毎日映画コンクール「スポニチグランプリ新人賞」、第16回山路ふみ子映画賞「山路ふみ子福祉賞」を受賞。映画や舞台の他、講演会、手話教室開催、執筆活動など多岐に渡り活躍中。近年作品は、映画『僕が君の耳になる』、『親子劇場』、ドラマ『デフ・ヴォイス』(NHK)等。
今井彰人
1990年12月26日、群馬県出身。2009年に日本ろう者劇団へ入団。初代代表の米内山氏の師事の元、舞台『エレファントマン』初主演でデビュー。牧原依里・雫境共同監督の映画『LISTEN リッスン』、KAAT短編映像作品『夢の男』主演、大橋孝史監督『親子劇場』出演・手話監修、今井ミカ・今井彰人・草田一駿共同制作作品『湧動』、宮崎大祐監督『MY LIFE IN THE BUSH OF GHOSTS』、第1回シバイバ短編演劇祭SEED for the Future vol.1徳留歌織・今井彰人共同演出『鏡は左右は逆に映るが、上下は逆さに映らない』など俳優・監修・演出など多岐に渡り活躍中。
ユースケ・サンタマリア
1971年3月12日、大分県出身。ラテンロックバンドのヴォーカル&司会者としてデビュー。主な出演作に、映画『交渉人 真下正義』、『あきらとアキラ』、『沈黙の艦隊』等。ドラマ『踊る大捜査線』シリーズ、大河ドラマ『麒麟がくる』、『光る君へ』(NHK)等。呉美保監督作は映画『酒井家のしあわせ』以来2本目の出演。
烏丸せつこ
1955年2月3日、滋賀県出身。五木寛之原作の映画 『四季・奈津子』の主役・奈津子役で映画初主演にもかかわらず圧倒的な存在感を示した。近年の主な出演作は主演作『なん・なんだ』、『夕方のおともだち』、大河ドラマ「功名が辻」(NHK)、連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)等。
でんでん
福岡県出身。1981年森田芳光監督の映画『の・ようなもの』で俳優の道へ。2011年、園子温監督の『冷たい熱帯魚』で、二面性のある連続殺人鬼役を演じ、多数の映画賞を受賞。独特の存在感と持ち前のキャラクターは、どの役柄にもリアリティを持たせ、映像作品に欠かせない俳優として活躍。近年の主な出演作は『仕掛人・藤枝梅安』、連続テレビ小説「おかえりモネ」(NHK)、大河ドラマ「どうする家康」(NHK)等。
監督
呉美保
1977年3月14日、三重県出身。初の長編脚本『酒井家のしあわせ』がサンダンス・NHK国際映像作家賞を受賞し、2006年同作で映画監督デビュー。『オカンの嫁入り』で新藤兼人賞金賞を受賞。『そこのみにて光輝く』で、モントリオール世界映画祭ワールドコンペティション部門最優秀監督賞を受賞し、併せて米国アカデミー賞国際長編映画賞日本代表に選出。続く『きみはいい子』はモスクワ国際映画祭にて最優秀アジア映画賞を受賞。本作は9年ぶりの長編作品。
脚本
港 岳
1974年3月5日、宮崎県出身。『僕がこの街で死んだことなんかあの人は知らない』でシナリオ作家協会主催大伴昌司賞を受賞。近年の主な作品は『とんび』(瀬々敬久監督)、『アナログ』(タカハタ秀太監督)、『正欲』(岸善幸監督)、『ゴールド・ボーイ』(金子修介監督)、ドラマ『前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(WOWOW)、ドラマ「仮想儀礼」(NHK)等。
手話演出・ろう演出
手話演出:早瀬憲太郎
奈良県出身。手話を第一言語とするろう者。映画監督。主な監督作品に、『ゆずり葉』、『生命のことづけ』、『咲む』等がある。様々な映画や映像作品の手話指導・手話監修・手話演出を務めている。
コメント: 2つの世界と言っても境界線があるわけではない。両者は複雑に絡み合い繋がり合いその狭間で生きる人たちの生き様は一言では表しようもない。呉監督はそれを徹底してリアルにかつ繊細な感情の揺れ動きや空気感までも全てを映し出そうとした。そのために生み出されたアプローチが「手話監修」を超越した「手話・ろう演出」である。私と石村は映画の全てを演出する呉監督の頭の中にダイブして呉監督と一体化して手話とろうの世界を演出した。それはクランクインの数ヶ月前から始まり全ての登場人物の手話のみならずその視線や表情、仕草や行動、関係性など細部にわたって映像に映らない部分までもこの世界観を完璧なまでに映し出すことを呉監督は見事に成し遂げた。この2つの世界を思考ではなく全ての感覚を総動員して味わってもらえたらと思います。
手話演出:石村真由美
鹿児島県出身。手話を母語とするろう者。ColdPlayへ楽曲の手話協力をはじめ、雑誌「リベラルタイムズ」、漫画「僕らには僕らの言葉がある」、映画『SHE HEAR LOVE』など多数の作品において手話指導・手話監修を務める。
コメント:
『当たり前の日常を切り取った画を』———呉美保監督のことば。リアリティを追求する呉監督の慧眼には感服。カメラマンをはじめ、スタッフがきこえない世界を写実的に取り込んだ。手話演出に携わらせていただくにあたり、徹底的にリアリティにこだわった。大の気持ちをそのまま手話に。舞台は…宮城。方言、家族以外のろう者とのかかわり方、成長。手話もともに変化していく。親子がゆえに、陽介や明子の手話と重なる。お父さんお母さんと話すときは、どこか幼い。五十嵐家のホームサインも手話の中に溶け込んでいる。おとなになってもホームサイン。家族の絆の証と呼べるものが大の中に垣間見える。手話をとおして大の成長や両親への想い、喜びや葛藤。きこえない世界。もう一つの世界をこの映画を観て知ってほしいと願う。
劇場情報
2024年9月20日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
2024年9月13日(金)宮城県先行公開。
その後、全国各地で順次上映予定。
詳細は以下の公式サイトからご確認ください。
バリアフリー上映について
バリアフリー字幕
呉美保監督のもと、当事者のモニターの方、監修の方と意見交換会を実施し、セリフだけではなく話者名、音楽、効果音と適切な字幕を入れた形で完成させました。
音声ガイド
本編手話部分のセリフについて、呉美保監督が自らキャスティングした俳優陣がアフレコを実施。セリフを自然に聞く事ができ、ナレーター部分のバリアフリー字幕原稿を制作したディスクライバー(注)が読み上げを担当しております。
注:ディスクライバー:音声ガイドの台本を書く人。セリフや演出のキーとなる音とかぶらないようにナレーションの尺や位置を調整します。 また、映画の演出を伝えられるよう描写する情報を取捨選択し、聞く人が理解しやすい言葉を選ぶなどを担当する方。