京都国立近代美術館の「感覚をひらく」事業は、2020年度からは作家(Artist)、視覚障害のある方(Blind)、学芸員(Curator)がそれぞれの専門性や感性を生かして協働し、所蔵作品の新たな鑑賞プログラムを開発する「ABCプロジェクト」に取り組まれています。本展はその第3弾として、長谷川三郎の抽象絵画をテーマに実施されます。
1937年、長谷川三郎は《蝶の軌跡》という抽象絵画を描きました。画面は8の字や楕円、点々や荒い筆致だけで構成されているため、どこにチョウの動いた軌跡が描かれているのか分かりません。ただ、画面のなかで何かが動いていた気配だけが漂ってきます。こうした抽象絵画から受ける目に見えない気配のような感覚は、どのように伝え合うことができるのでしょうか。
本プロジェクトでは、中村裕太(A)、安原理恵(B)、松山沙樹(C)の3人が、この作品と同じ大きさのキャンバスの上で、長谷川の筆致をなぞりながら言葉を交わし、図録や美術雑誌などの文献資料を読み合わせ、さらに動物行動学からチョウの飛ぶ道を検証していきました。そして、粘土やロープ、小豆などの素材を組み合わせることで、触れることで想像力が刺激される《蝶の軌跡》の触図*を作り出していきました。
展覧会では、3人の会話や行動をもとに《蝶の軌跡》にまつわる長谷川の思索を推し量りながら制作した14種の触図を展示空間に設えます。会場を巡りながら、触図を見て、聴いて、触れることで抽象絵画の新たな鑑賞方法を探っていきます。
*触図(しょくず)とは、作品の構図や色合いなどを触覚情報に変換・翻案して表した図
特設サイト
「ABCコレクション・データベース Vol.3 長谷川三郎《蝶の軌跡》のイリュージョン」
長谷川三郎《蝶の軌跡》を言葉、文献資料、チョウの行動、触図からひも解いたウェブサイト。
※ウェブサイトは10月5日(木)公開予定です
「ABCコレクション・データベース Vol.3 長谷川三郎《蝶の軌跡》のイリュージョン」特設サイト
作家紹介
中村裕太
1983年東京生まれ、京都在住。2011年京都精華大学博士後期課程修了。博士(芸術)。京都精華大学芸術学部准教授。〈民俗と建築にまつわる工芸〉という視点から陶磁器、タイルなどの学術研究と作品制作を行なう。近年の展示・プロジェクトに「第17回イスタンブール・ビエンナーレ」(バリン・ハン、2022年)、「眼で聴き、耳で視る|中村裕太が手さぐる河井寬次郎」(京都国立近代美術館、2022年)、「万物資生|中村裕太は、資生堂と を調合する」(資生堂ギャラリー、2022年)、「ツボ_ノ_ナカ_ハ_ナンダロナ?」(京都国立近代美術館、2020年)、「in number, new world/四海の数」(芦屋市立美術博物館、2019年)。著書に『アウト・オブ・民藝』(共著、誠光社、2019年)。
関連イベント
ギャラリートーク
日程:2023年10月14日(土)
時間:午後4時から午後5時
会場:京都国立近代美術館 4階 コレクション・ギャラリー
ABCのメンバーと本展のデザインチーム(D)が展示のみどころやプロジェクトの裏側を語り合います。
トークセッション
日程:2023年11月5日(日)
時間:午後2時から午後5時
ゲスト:広瀬浩二郎(国立民族学博物館教授)
会場:京都国立近代美術館 4階 コレクション・ギャラリー ならびに 1階 講堂
抽象絵画をどう「さわる」のか、会場で触図に触れながらその意義や可能性について話し合います。