モノクローム 描くこと
道具をつかい、線や面で形を描くことも、心の中にイメージを思い描くことも、どちらも「えがく」と言うように、描くという言葉には、広い意味があります。一方、作品の色を白黒のモノクロームに限ってみると、作家ひとりひとりが描き出す独自の世界観がより際立って見えてきます。
本展では、木炭やペン、ニードルなどの画材や道具を用いて対象を描き出したり、針金など描画には用いられることの少ない素材で形づくられたりする作品や、記された言葉や記号によってイメージが立ち現れてくる作品が展示されます。
出展作家
岡元俊雄(OKAMOTO Toshio)1978-
滋賀県生まれ。1996年から、やまなみ工房(滋賀県)に所属。岡元は、墨汁と先を尖らせた1本の割り箸を自在に操り、写真や実際に見たモチーフを新たなイメージに変換して写しとる。トラックなら通り過ぎる視界の変化に忠実に、正面、側面、背面のディティールなどを細かく捉えながら展開図のように描き、人物なら墨汁を飛び散らせながら躍動感のある線を重ねて姿を浮かび上がらせる。主な出展歴に、2017-2018年「日本のアール・ブリュット KOMOREBI展」フランス国立現代芸術センター リュー・ユニック(フランス)などがある。
高橋和彦(TAKAHASHI Kazuhiko)1941-2018
岩手県生まれ。高橋は、盛岡杉生園(さんせいえん)(岩手県)の創作クラブをきっかけに、58歳の時に初めて本格的に絵を描いた。以降、熱心に創作を続け、高い密度で描き込まれたペン画が300点以上残されている。本や写真、実際に見た風景などの記憶をもとに、様々なエピソードとモチーフを構成する絵画世界は、見る者の記憶の中にある、街のざわめきや人々の生活の気配を色あざやかに喚起する。主な出展歴に、2010-2011年「アール・ブリュット・ジャポネ」パリ市立アル・サン・ピエール美術館(フランス)などがある。
たぬきだshin(Tanukidashin)1999-
兵庫県生まれ、兵庫県在住。中学3年生の時からはじめたという針金を素材に造形される立体は、独自の手法で、まるで線画のスケッチのように船や飛行機、生き物などの多様なモチーフを三次元空間へ写実的に描き出す。作品のモチーフは、本などの資料や、作家の暮らす港町で見る船などをヒントに創作され、大きな工業物から、ファンタジー小説にあたかも登場するかのようなキャラクターに至るまで、全てオリジナルのイメージだ。主な出展歴に、2014年「第四回『こころのアート展』in しあわせの村 2014」 (兵庫県)などがある。
西岡弘治(NISHIOKA Koji)1970-
大阪府生まれ。2005年に開設したアトリエコーナス(大阪府)の初期メンバー。施設にピアノと楽譜が寄贈されたことをきっかけに、線が独特の揺らぎをもって近づいたり離れたり、描き重ねられて太くなったりする情感豊かな楽譜の模写を始めた。子どもの頃に親しんだクラシックやアニメソングの記憶を反芻するかのように、お気に入りの楽譜を描き続けている。主な出展歴に、2015年「Art Brut Live, abcd collection」DOX Centre for Contemporary Art (チェコ共和国)がある他、abcd財団(フランス)などに作品が収蔵されている。
平瀬敏裕(HIRASE Toshihiro)1971-
北海道生まれ。あかとき学園(北海道)に在籍する平瀬の創作は、2001年にノートの片隅で突然はじまったという。作品は、一見すると色面が並ぶ抽象画のように見えるが、色面は無数の×印が集まったユニットだ。×印は、ペンのインクがなくなるまで描き連ねられるため、インクの擦れが自然と濃淡を生みだし、画面の中で異なるニュアンスをもって構成され、行為の集積によって描き出された偶然と必然のかたちが交錯する表現となる。主な出展歴に、2010-2011年「アール・ブリュット・ジャポネ」パリ市立アル・サン・ピエール美術館(フランス)がある。
堀口好輝(HORIGUCHI Yoshiteru)1978-
京都府生まれ。京都市ふしみ学園「アトリエやっほぅ‼」(京都府)で制作する。ふくよかで愛らしいモチーフが浮かび上がる堀口の版画は、版となるプレートを直接削って描くドライポイントの技法でつくられる。鉛筆で描いた下絵の線を、ニードルで削るようにしてなぞったり、手で剥がしたりして描画した紙のプレートを原版に、刷りの工程を経て作品は完成する。ボール紙の真っ白な版に刻まれた淡い線や面は、インクの滲みによって可視化される。主な出展歴に、2020年「ひぐちよしまさ ほりぐちよしてる 展」art space co-jin(京都府)がある。
吉川敏明(YOSHIKAWA Toshiaki)1947-1987
京都府生まれ。1966年に入所した障害者支援施設みずのき(京都府)において、日本画家の西垣籌一(ちゅういち)(1912-2000)の指導する絵画教室で制作した。吉川は、モチーフを黒々と塗り込めた大胆な構図の木炭デッサンで知られる。修正や手直しをせずに描いていたというが、黒いモチーフと余白の間に美しいグラデーションのある、見事に安定した画面を構成している。繰り返し描かれたタマネギのシリーズからは、豊かなバリエーションを比較できる。本展に出展の《ひょうたん》は、1993年「パラレル・ヴィジョン 20世紀美術とアウトサイダー・アート」展(世田谷美術館、東京都)と同時開催された「日本のアウトサイダー・アート」展へ出展されたうちの1点。
関連イベント
ドローイング+トーク「おんがくがみえる、きこえる絵とその物語」 ※手話通訳付き
出展作家・西岡弘治さんの作品の魅力を、ドローイングの公開制作とトークでご紹介します。
日時:2023年7月28日(金)
〈公開制作〉午後6時30分から午後7時まで
〈トーク〉午後7時15分から午後8時まで
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー 展示室1、2
〈公開制作〉西岡弘治(出展作家)
〈トーク〉白岩髙子(特定非営利活動法人コーナス 代表理事)
鑑賞会「みると話(わ)」 ※9月13日(水)のみ手話通訳付き
展示室で作品を囲み、会話を楽しみながらグループで鑑賞します。
① 2023年8月28日(月) 午後2時から午後4時まで ※8月28日は休館日の開催です
② 2023年9月12日(火) 午後6時30分から午後8時30分まで
③ 2023年9月13日(水) 午後6時30分から午後8時30分まで
ナビゲーター:白鳥建二(全盲の美術鑑賞者/写真家)、展覧会担当学芸員
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー 展示室1、2
定員:各回5名(事前申し込み・抽選制) 申込受付期間:7月25日(火)-30日(日)
アーティスト・トーク 出演:たぬきだshin(出展作家) ※手話通訳付き
本展出展作家・たぬきだshinさんをゲストに迎えお話をお聞きします。
日時:2023年9月8日(金) 午後6時30分から午後7時まで
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー 展示室1、2
関連イベントのお申込み、詳細はこちらの東京都渋谷公園通りギャラリー ウェブサイトよりご確認ください。