人間には、それぞれ様々な特性があります。長所/短所なども含めて、一人ひとりの個性の違いを「異彩」と捉えてユニークな表現を尊重する。ヘラルボニーはその独創性こそが大切と考え、障害のある人を差別してはいけないという社会的基準の選択ではなく、ただアーティストとして素晴らしいという、ごく当たり前の価値で選んだ人々の表現活動を応援しています。
いわゆる自分の考えや感情を何かの行動に置き換えることを広く「表現」と捉えれば、日常の中には様々な表現があります。料理をすること、鼻歌を歌うこと、ランニングすること、ぐっすり眠ることなど。そして、表現された言葉や態度に向き合うことで、私たちはその人が何を考え、何を言おうとしているのかを知ることになります。「描くこと/作ること」も表現の一つであり、作品を見ることで作家の気持ちや意思を受け取ることになるわけです。知的に障害がある人たちの作品には、理性や理論で説明づけられるのでない、「描くこと/作ること、すなわち生きること」を体現するような、作品を通して「ここに自分がいる」ことを発信しようという特徴があります。私たちが「作品を見る」とは、アーティストの表現への衝動に基づく純粋で生の芸術活動に立ち会うことにほかなりません。展覧会「ART IN YOU」は、アートとは作品のみを示すのでなく、立ち会うあなた自身が自分の中に作り出すものと考えます。そのメッセージをできるだけ広く遠くに飛ばしながら、あなたには作品を通して作家の生き方、考え方と交感してほしい。慣習的な芸術や文化の決まり文句に頼らずに「アートはあなたの中にある」ことを実感してもらえるものと思います。
ヘラルボニー アドバイザー
金沢21世紀美術館 チーフキュレーター
黒澤浩美
出展作家
伊藤大貴、井口直人、内山.K、大家美咲、鎌江一美、GAMON、衣笠泰介、木村全彦、国保幸宏、坂本大知、志多伯 逸、高田 祐、早川拓馬、藤田望人、森 啓輔、山際正己
以上 16名
作家・作品紹介(※抜粋)
鎌江一美(かまえ かずみ)
1966年生まれ。滋賀県在住。1985年から〈やまなみ工房〉に所属。思いを人に伝えるのが苦手な彼女は、コミュニケーションのツールとして振り向いて欲しい人の立体を作り続けている。モデルはすべて思いを寄せる男性。最初に題材を決め、原形を整えると、その表面全てを細かい米粒状の陶土を丹念に埋め込んでいく。完成までに大きな作品では約2か月以上を要する事もあり、無数の粒は作品全体を覆い尽くし様々な形に変化を遂げていく。大好きな人に認めてほしい。今もなお、その思いが彼女の創作に向かう全てである。
坂本大知(さかもと だいち)
茨城県立美浦特別支援学校卒業後、2016年に〈自然生クラブ〉に参加。温厚な性格でユーモアがあり、どんな仕事にも責任をもって取り組む。創作田楽舞では2019年の香港公演に参加。自由でのびやかな感性を持ち、太鼓を叩いたり、ダンスや歌を歌ったりする。絵画では「筆を滑らす動き」を重視し、ダンスと融合している印象を与える。形に着目し、何度も形をなぞって描き上げた《土偶》(2019)は、好評で、市役所の市長室控室に展示された。
山際正己(やまぎわ まさみ)
1972年生まれ。滋賀県在住。1990年から〈やまなみ工房〉に所属。炊事、洗濯、部屋掃除に古紙回収、毎日彼が同じ時間、同じ流れで生活する中のひとつに創作活動がある。入所当初は、学校時代に学んだ皿や器等しか作ることのできなかった彼が、様々な体験や共に過ごす仲間からの影響を受け、次第に作品も個性豊かな立体造形へと進化していった。彼の真面目で実直な性格は作風にも表れ、同じ形の物を止めることなく、まるで流れ作業のように量産して作りつづけることができる。彼の代表的な作品《正己地蔵》もこれまで20年以上変わることなく制作され、何十万体を超える作品は、彼の生き様そのものなのである。
志多伯逸(したはく すぐる)
沖縄県在住。彼の主題は、学生時代から花火とエスカレーター。自分の想像によってつくり出したもので、実在するものはほとんどない。自分の考えた架空の設定を、人に説明するのも楽しみのひとつ。主に鉛筆で描き、ペンや絵の具を準備しても手を出さない。花火の絵は白い画用紙に鉛筆で描いたが、高校生の頃、美術教師のアドバイスで今のスタイルに変わった。一見まったく違う画風にみえるが、いずれの作品も、飽くことなく幾重にも線を重ねたドローイング(線描)で、そのことが作品の強度を生み出している。現在も、〈わかたけアート〉の創作活動では、もっぱらエスカレーターを、自宅では花火とエスカレーターを描きつづけている。その作品数は膨大な数になる。
関連イベント
オープニングイベント
①アートクルーズ[手話通訳あり]
ヘラルボニーの両代表、松田崇弥と松田文登によるギャラリートークを開催。出展作家のストーリーや作品の魅力について語りながら展覧会を巡ります。
日時:5月20日(土)午前11時30分から午前12時
会場:三井住友銀行東館 1Fアースガーデン
ガイド:ヘラルボニー松田崇弥、松田文登
参加費:無料
②オープニング・トーク「アートをコレクションする魅力とは」[手話通訳あり]
展覧会「ART IN YOU」オープニング・トークとして、本展キュレーター黒澤浩美とヘラルボニー両代表 松田崇弥、松田文登が、日本を代表するアーティストを輩出し、現在もアートマーケットの第一線で活躍する小山登美夫氏(小山登美夫ギャラリー代表)をゲストにお迎えし、スペシャルトークをお届けします。
日時:5月20日(土)午後1時から午後2時(受付開始 午後0時45分)
会場:三井住友銀行東館 1Fアースガーデン
入場:無料
定員:40名(事前申込制/席あり)
情報保障:手話通訳
事前申し込みは、「ART IN YOU」peatixサイトよりお申し込みください。
③ライブペインティング
三重県の福祉施設〈希望の園〉に在籍する作家、内山.K、早川拓馬、森 啓輔の3名によるライブペインティングを実施。
ヘラルボニー松田文登、施設長・村林真哉氏による解説トークと共にお届けします。
日時:5月20日(土)午後2時30分から午後3時30分
会場:三井住友銀行東館1Fアース・ガーデン
入場:無料(事前申込不要)
情報保障:手話通訳
会期中イベント
6/3(土)公開アート制作
やまなみ工房に在籍する作家、大家美咲、鎌江一美の2名による公開アート制作。やまなみ工房・施設長 山下完和氏、ヘラルボニー・榧森千愛による解説トーク付きでお届けします。
日時:6月3日(土)午後1時30分から午後2時30分 / 午後3時30分から午後4時30分
会場:三井住友銀行東館 1Fアースガーデン
参加費:無料
アートクルーズ(毎週土日 午後2時から午後2時30分)
ヘラルボニースタッフによるギャラリートークを開催。
出展作家のストーリーや作品の魅力について語りながら展覧会を巡ります。
日時:毎週土日午後2時から午後2時30分
会場:三井住友銀行東館 1Fアースガーデン
参加:無料(予約不要)
関連イベントの詳細は「ART IN YOU」特設サイトをご確認ください。
株式会社ヘラルボニー
ヘラルボニーは「異彩を、 放て。」をミッションに掲げる、福祉実験ユニットです。
国内外の主に知的な障害のある福祉施設、作家と契約を結び、2,000点を超える高解像度アートデータの著作権管理を軸とするライセンスビジネスをはじめ、作品をファッションやインテリアなどのプロダクトに落とし込む、アートライフスタイルブランド「HERALBONY」の運営や、建設現場の仮囲いに作品を転用する「全日本仮囲いアートミュージアム」など、福祉領域の拡張を見据えた多様な事業を展開しています。これらの社会実装を通じて「障害」のイメージ変容と、福祉を起点とした新たな文化の創造を目指します。社名である「ヘラルボニー」は、知的障害のある両代表の兄・松⽥翔太が7歳の頃⾃由帳に記した謎の⾔葉です。「⼀⾒意味がないと思われるものを世の中に新しい価値として創出したい」という意味を込めています。