「アール・ブリュット ゼン&ナウ」は、国内外のアール・ブリュットの動向において、長く活躍を続ける作家と、近年発表の場を広げつつある作家を、さまざまな角度から紹介する展覧会シリーズです。
3回目の「ただよう記憶の世界」では、国内の作家5名がとりあげられ、視覚や味覚など身体の感覚の「記憶」から生まれた作品を「作家のあるひと時の記憶の世界」として紹介されます。
それぞれ独自の感覚と視点によって、さまざまなかたちで作品へと姿を変える作家たちの「記憶の世界」。食べた料理や見た風景と自然、幼いころの絵描き歌が、作家の手によって鮮やかに現れ、作家の過ごした時間へと私たちを誘います。たとえ同じ時間を過ごしても、記憶はその人唯一のもの。それらの違いも、一人ひとりを形づくる大切なひとつの要素です。忙しく通り過ぎてしまった日々の記憶や、つい忘れてしまいがちな身体で感じた記憶などに少し想いを馳せると、もしかしたら、ささやかでありながらも大切な記憶に再会できるかもしれません。ひとつのかたちにはとどまらない作家たちの「記憶の世界」と、それぞれの今ここにはない時間の中をただようように作品をご鑑賞いただけます。
出展作家
後藤友康 (ごとうともやす)1965-
埼玉県生まれ。1984年から2019年頃埼玉県にある〈川口太陽の家〉に所属し、創作を行なった。色鮮やかなクレヨンやインクで、ベニヤの板やレコード盤、CDなどに描かれた線たちは、幼いころに聴いた絵描き歌がもととなり生まれた表現である。
主な展示に「工房集展 FundamentalⅡ」(マキイマサルファインアーツ[東京都]、2015年)などがある。
小林一緒 (こばやしいつお) 1962-
東京都生まれ。調理師として、蕎麦屋や病院の給食センターなどで勤務した。18、19歳頃から、小林自身が食べた食事を思い出してメモに残すようになる。26歳頃から現在のような形での制作へと変わった。18歳頃から書き溜めたメモ書きをもとに、当時の記憶を呼び起こしながら描いている。
主な展示に「Art Brut du Japon, un autre regard」(アール・ブリュット・コレクション[スイス・ローザンヌ]、2018-2019年)などがある。
東本憲子 (ひがしもとのりこ)1983-
大阪府生まれ。大阪市にある〈西淡路希望の家〉に所属。織物をはじめ、イラスト作品など様々な作品を制作している。気泡緩衝材(エアキャップなどとも呼ばれる)の気泡に、油性カラーペンや水性インクペンを用いて細かく塗り分けながら直線や面が繋がり、幾何学模様は生み出されている。
主な展示に「北九州未来創造芸術祭」(北九州市立美術館(本館)[福岡県]他、2021年)などがある。
戸來貴規 (へらいたかのり)1980-
岩手県生まれ。《にっき》は、岩手県花巻市にある〈やさわの園〉に所属し過ごすなかでの日常的な習慣であった。戸來とこの習慣に注目した職員による、時間をかけた丁寧なやりとりによって、表現について少しずつ明らかとなっていった。
主な展示に「JAPON」(アール・ブリュット・コレクション[スイス・ローザンヌ]、2008-2009年)などがある。
松原日光(まつばらひかる)1975-
京都府生まれ。16歳頃から自宅にて刺繍を始める。松原が生み出す刺繍は、1針1針が緻密でありつつ、大胆な形でモチーフを表現している。家族旅行で訪れた山や景勝地をはじめ、庭で季節ごとに咲く花や植物などをモチーフに、松原の独特な色彩感覚によって鮮やかな色彩と特徴的な形の刺繍へと姿を変える。
主な展示に「共生の芸術祭「幅と奥行き」」(京都府立文化芸術会館他、2016年)、「共生の芸術祭「旅にでること、その準備」」(京都市美術館別館他、2021-2022年)がある。
関連イベント
ギャラリートーク with ゲスト(手話通訳付き)
学芸員と作家関係者等のゲストによるギャラリートークです。全2回。全回、日本手話の通訳がつきます。
日時
① 2023年5月28日(日) 13:30-14:30(約60分)
ゲスト:【後藤友康氏 関係者】社会福祉法人みぬま福祉会川口太陽の家・工房集 スタッフ 森田博子氏、【東本憲子氏 関係者】西淡路希望の家 美術部 金武啓子氏
② 2023年6月10日(土) 13:30-14:30(約60分)
ゲスト:【戸來貴規氏 関係者】社会福祉法人グロー東近江障害施設群 総合施設長 田端一恵氏
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー 展示室 1、2
参加費:無料
定員:各回10名(先着順、事前申込不要)
※開始時間10分前より展示室入口で受付いたします。
資料スペース
アール・ブリュット ゼン&ナウ Vol.3「ただよう記憶の世界」の会期中、交流スペースはアール・ブリュットに関連する資料スペースとなります。 「ただよう記憶の世界」の出展作家に関係する施設を紹介するパネル展示に加え、アール・ブリュットの関連書籍の閲覧スペースとして開放されます。