風景は人によって異なる現れ方をします。その土地に生まれたのか、旅行者なのか、懐かしいふるさとなのか、いつまでも見ていたい、そんな眺めなのか―その人の出自や思い出の数だけ異なった形で、風景はそれぞれの心の内に現れます。
また、風景は留まることがありません。日々、町並みは変わっていきますし、天災や戦争が一瞬にして景観を奪うこともあります。それらは、建物や自然環境の物質的な変化であるだけでなく、その風景に接した人々が寄せてきた思いや、蓄積してきた記憶といった心情の変遷や喪失でもあります。風景を描くこと。それは変化したり、失われたり、忘れられたり、うつろっていく世界を、絵という画角の中に留めていく作業といえます。風景の描き手は、外の景観を心の内に捉え、自らの身体と画材を通して、再び外に放出するという、往復を繰り返します。その中で、描き手の内と外は分けがたく混じり合い、混合や融和の果てに、風景は絵になっていきます。
風景を描くということを誰もが一度はしたことがあるはずです。またそれは、美術の歴史の中でもずっと昔から続く営みです。人間にとって、大切な画題である風景。
本展では「絵になる風景」をテーマに7名のアーティストの作品が展示されます。
出展作家
古久保憲満、衣真一郎(ころもしんいちろう)、ドゥ・セーソン、畑中亜未(はたなかつぐみ)、福田絵理、古谷秀男、三橋精樹
展覧会の見どころ
- 「風景」の様々な表現を紹介
日常で見慣れた身近な風景や、心に描く心象風景、一族の歴史的な風景など、7名の作者による作品を通して、「風景」とは何か、「絵」とは何かについて考える展示となっています。 - 古久保憲満の10mにおよぶ絵画
滋賀県東近江市出身、国内外で作品を発表している古久保憲満。彼は世界の都市や電車、建築物、宇宙、車、船といった関心を寄せる物事を次々に吸収し、大きな紙面に描き進めていきます。本展は古久保の代表的な作品である10mの巨大な絵画が展示される貴重な機会です。 - 風景の背後の様々な歴史
16 歳から 33 年間、開拓移民としてブラジルで暮らした古谷秀男や、ベトナム戦争をきっかけにラオスやベトナムからタイの難民キャンプに逃れたモン族など、様々な歴史的な背景を持った作家たちによる作品を展示します。絵の背景に思いをはせることで、より深く、作品を楽しんでいただけるよう工夫されています。 - 見えない、見えにくい人のための鑑賞方法
視覚障害がある方でも展覧会や作品の魅力を楽しめるように、触って楽しめる鑑賞ツールなど、様々な鑑賞方法が準備されています。
関連イベント
“秋の沖島を描く”写生会
琵琶湖に浮かぶ自然豊かな沖島へ渡り、出展者と一緒に島内を散策。秋の沖島の風景を描く写生会に参加しませんか? 堀切港まではバスでご案内します。
講師:衣真一郎(画家、本展出展者)
日時:10 月 29 日(土)9:00〜18:00 頃 集合:NO–MA
定員:10名(要予約)
参加費:無料 ※NO–MA観覧料と乗船料(往復1000円)が別途必要です。