京都国立近代美術館では、「みる」ことを中心としてきた美術鑑賞のあり方を問い直し、「さわる」「きく」などさまざまな感覚を使うことで誰もが作品に親しみ、作品の新たな魅力を発見・共有していく「感覚をひらく」事業が行われています。2020年度からは作家(Artist)、視覚に障害のある方(Blind)、学芸員(Curator)がそれぞれの専門性や感性経験を生かして協働し、所蔵作品をテーマとする新たな鑑賞プログラムを開発する「ABCプロジェクト」に取り組んでいます。
2年目となるこのプロジェクトでは、河井寛次郎(1890-1966)が晩年に制作した《三色打薬陶彫》(1962年)に焦点を当てています。この展示では、「暮しが仕事 仕事が暮し」という寛次郎の言葉(『いのちの窓』1948年)を手がかりに、寛次郎の暮しぶりに触れていくことで、その造形感覚を読み解くことを試みています。
寛次郎は自らがデザインした家具や愛用品に囲まれた空間で、トランジスタラジオを聴いていました。そして、機械製品、仏像、西洋絵画、建築、こどもの詩や薬品などの新聞記事を切り抜き日記に挟むといった暮しを営みながら、日々の仕事を行っていました。また「眼聴耳視」という寛次郎の言葉からは、身近な自然や機械製品のかたちを身体感覚によってとらえ、自身の中で溶け合わせ調和させながら自由な造形を生み出していった姿を想像することができます。
会場では、寛次郎が切り抜いた新聞記事をはじめ、安原理恵による河井寛次郎記念館の物品を触れて鑑賞した音声、それをもとにした中村裕太の手でふれる造形物が展示されます。そうした空間のなかで「さわる」「きく」などの感覚を使って、寛次郎の作品づくりを新たな角度からひも解きます。また、寬次郎の仕事をその暮しぶりからひも解いたウェブサイト「ABCコレクション・データベースVol.2 河井寛次郎を眼で聴き、耳で視る」も公開しています。
「ABCコレクション・データベースVol.2 河井寛次郎を眼で聴き、耳で視る」
作家(Artist)、視覚障害のある方(Blind)、学芸員(Curator) が、河井寛次郎の仕事をその暮しぶりからひも解いたウェブサイト。自宅等でも鑑賞を楽しむことができるコンテンツです。
作家紹介|中村裕太
1983年東京生まれ、京都在住。2011年京都精華大学博士後期課程修了。博士(芸術)。京都精華大学芸術学部特任講師。〈民俗と建築にまつわる工芸〉という視点から陶磁器、タイルなどの学術研究と作品制作を行なう。近年の展示に「第20回シドニー・ビエンナーレ」(2016年)、「あいちトリエンナーレ」(2016年)、「柳まつり小柳まつり」(ギャラリー小柳、2017年)、「MAMリサーチ007:走泥社—現代陶芸のはじまりに」(森美術館、2019年)、「ツボ_ノ_ナカ_ハ_ナ ンダロナ?」(京都国立近代美術館、2020年)、「丸い柿、干した柿」(高松市美術館、2021年)、「万物資生|中村裕太は、資生堂と を調合する」(資生堂ギャラリー、2022年)。著書に『アウト・オブ・民藝』(共著、誠光社、2019年)。
中村裕太 公式ウェブサイト