本展はカナダ・カルガリーにあるナショナル・アクセスアーツ・センター(NaAC)のキュレーションによる展覧会です。
展示作家の1人、故ジェーン・キャメロン(1949-2000)は、自宅とNaACの両方で活発な創作活動を行い、その作品は首相官邸を含む多くの愛好家に収集されたり、制作を依頼されました。 キャメロンが亡くなる2年前の1998年、彼女の作品を共有し、世に広め、研究するため、NaACにジェーン・キャメロン・アーカイヴ委員会が設立されました。本展では、そのあとを継ぐカナダ人アーティストたち、デビッド・A・オッポン、アディール・サディク、レイ・ワン、ドナルド・グリーノウのテキスタイルなどの様々なアートフォームの作品約20点が一堂に集まります。
ナショナル・アクセスアーツ・センター(NaAC)について
ナショナル・アクセスアーツ・センターは、カナダで最も古く、大きい障害者芸術団体で、発達障害、身体障害、後天的障害のある人々に芸術の訓練、創作、展示の機会を提供しています。
アーティストたちがコンセプトの立案から展示まで芸術作品の制作プロセス全てを経験できるよう、優秀な講師陣がサポートしています。現在はコロナ禍で休止中ですが、再開に向けた準備を進めており、間もなく一部のアーティストたちがスタジオに戻ってくる予定です。一方で、まだ在宅で制作するアーティストに向けては、毎日複数回のオンライン・ズームセッションや、毎月の「フラックス・キット」を郵送するなど、美術に関わる活動を継続しています。
NaACは、アーティストが学び、成長し、称賛される場を提供するだけでなく、障害のある人々に対するコミュニティーの認識を変え、進歩させることを目標としています。
アーティストプロフィール
ジェーン・キャメロン
1949年生まれ、2000年没。アルバータ州ハイ・リバーに生まれ、模範的な人生を送る。生後4か月でダウン症と診断され、施設への入所を勧められるが、他のどんな子にも劣らない生活をさせたいという家族の希望で、国際的に評判の高いアメリカの学校に入学。そこで10年を過ごした後、モントリオールにあるシェルタード・ワークショップ(知的障害者のための作業所)に入ると、優れた能力を持っていることが分かり、間もなくアトリエのチーフデザイナーとなる。 カルガリーのNaACのアートクラスに通っているときに、才能がさらに開花。大胆でカラフルで繊細な独創的デザインのデッサンやファイバーを使った作品を生み出す。
ジェーン・キャメロン・アーカイヴ委員会は、その視覚的レガシーを世に広め、ダウン症のアーティストの優れた才能が評価されるよう、精力的な活動を続けている。キャメロンを追悼し、その芸術への貢献を称えて、ジェーン・キャメロン・アーカイヴス委員会、NaAC、カナダダウン症協会の3団体により、芸術分野で技能を発揮した人物を毎年1名表彰する全国規模の賞が創設される。2001年の創設以来、「ダウン症のアーティストのためのジェーン・キャメロン賞」は、カナダ各地のダウン症を持つ多くのアーティストの人生を豊かにし続けている。
デビッド・A・オッポン
アルバータ州カルガリー在住。ガーナ共和国アクラで、ガーナ人の両親の長男として生まれる。2017年12月にカナダに移住。写真や絵を通して感情の物語を捉えることを好む。自身のアートを、テレビや映画で見た状況を処理し、考察し、学ぶための手段として使う。 様々な物語を再現することが、多様な状況を理解する助けになるという。構図を重視し、アングル、パース、姿勢、顔の表情などを使って自分の考えを伝える。また、スポーツカーのラインやデザインが大好きで、この情熱は父親と共通している。穏やかで優しい性格で、作品のほとんどはリラックスして創造に専念できる静かな時間に描かれる。最近では、カルガリーのストライド・ギャラリーで開催の「We’re All Here Together, Still(私たちは皆ここに一緒にいる、今も変わらず)」(2020)、アルバータ州の芸術と文化の祭典、アルバータ・カルチャーデイズの一環としてcSPACEキング・エドワードで開催の「What Matters Now(今、大切なこと)」(2020)の二つの展覧会で作品が紹介された。
アディール・サディク
「私の作品とそれに書かれた言葉が持つパワーには、大きな意味が込められています。こうした言葉と、その意味をするところを与えてくれたのは私の父です。私はそれを覚え、すっかり自分のものにしています。このような言葉を読むと、幸せな気持ちになります。大きな誉め言葉ですから。私の父は賢い人です。私は全てを自分の芸術に注ぎ込みます。私は愛を感じながら制作します。カンバスにあらゆるディテール、あらゆるスケッチを描くとき、色を決めるときもそうです。私は自分の芸術を通して成長し、学びたいと思います。たくさん制作したいと思っています。NaACには、本やアイディアを持って行きます。時間と手間をかけて、美しいものに仕上げます。大きな作品を作ることは、多くの人に知ってもらえるということ。私は心から、そして全てに愛を込めて制作しています。言葉は心で感じるものなのです。」
「We’re All Here Together, Still(私たちは皆ここに一緒にいる、今も変わらず)」 (2020)、「What Matters Now(今、大切なこと)」(2020)に作品が紹介された。また、カルガリーの多数の個人コレクションに収蔵されている。
レイ・ワン
カルガリー在住、2018年からNaACに所属。幼い頃より色に強い興味を示し、日常生活での光景や、自然を描くことに関心を持つ。アートは幸せな気分になるしリラックスできるので、生活の中でとても重要だという。喜びと情熱を持って制作に取り組み、普段はエネルギッシュで少し多動なほどだが、制作に集中しているときは長時間、落ち着いて作業をする。一方で、頭の回転が速く効率よい筆運びをするため、非常に早く作品を仕上げることができる。カルガリーの中央図書館で開催のグループ展「6 ft Closer YYC」(2020)に作品が展示された。
ドナルド・グリーノウ
豊かな想像力を持つミクストメディアのビジュアルアーティストで、ユーモアを愛し、多くの作品に遊び心を取り入れている。粘土、ファイバーアート、ドローイング、ペインティングなど、あらゆる種類のアートメディアを使って制作を楽しむ。10年以上にわたり精力的に活動し、アルバータ州とその周辺での展示のほか、最近ではメキシコのザポパンにあるセントロ・クルトゥラル・コンスティトゥシオンで開催のグループ展「ドローイング・パワー」に参加。