岩手県・花巻市にあるるんびにい美術館のオープン時からアトリエで活動していた八重樫季良さんが、2020年5月に64年の生涯に幕を閉じました。
八重樫さんは、義務教育の免除という制度で学校に通えず、図工や美術の授業を経験したことがありませんが、妹が学校からもらって来た定規やクレヨンを借り、家で絵を描き始めました。やがて障害者施設に入所し、農作業の合間を縫って黙々と独り描き続けます。時間も材料も、周囲からの肯定的な眼差しも満足には得られない年月の中にあっても、八重樫さんの創造の火が翳ることはありませんでした。
八重樫さんが亡くなって1年、本展では幼い頃から半世紀以上にわたって続けられてきた創作活動の中で生まれた作品の数々が展示されています。
八重樫季良
1956年北上市生まれ。北上市の知的障害者支援施設を経て、17歳の時に花巻市の施設ルンビニー苑に入所。施設での農作業の合間で創作活動に励みました。絵を描くことが、八重樫さんの毎日を支える喜びであり続けました。誰に認められることが無くとも消えない創作意欲が生み出し続けた作品。それらはやがて少しずつ社会の中で知られ、やがて岩手県という実社会での芸術文化や障害のある人への認知にまで変化を生み出すに至ります。2007年からは花巻市の「るんびにい美術館」のアトリエに活動の場を移し、心置きなく創作に専念する年月を送りましたが、2020年5月に惜しまれながら世を去りました。