超高齢化社会を迎える現代の日本においては、誰もがいずれ、身体的・精神的な弱者になり、少数派になり得ます。それまで普通、多数派だと思っていた自分が、そういった場面に直面する時に、私たちは、どのような態度や生き方をしていくのでしょうか?
本展では、障害や加齢、そこから生まれる困難さと向き合い、またそこに注目しながら、日々制作を続ける、11 組の現代アーティストからロボット研究者、そして、それを支える人までを4つのテーマに分けてご紹介します。
*新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大状況により、会期が変更、または中止となる場合がございます。最新情報はINFORMATIONの美術館ウェブサイトをご確認ください。
【出展作家】
藤岡祐機、渡邊義紘、松本寛庸、大山清長、木下今朝義、森繁美、片山真里、ソフィ・カル、ICD-LAB(豊橋技術科学大学)、西本喜美子、坂口恭平
11組の表現者を4つのテーマで紹介
一緒に歩んでいくこと
この展覧会の始まりは、熊本市現代美術館と3名の作家との出会いです。藤岡祐機(1993-/熊本在住)、渡邊義紘(1989-/熊本在住)との出会いは18 年前、熊本市現代美術館の開館記念展「ATTITUDE 心の中のたった一つの真実のために」です。当時、熊本養護学校の小学部、中学部に通っていた二人は、切り紙作品を出品、その経験がきっかけとなって、今日まで、ずっと欠かす事なく制作を続けています。建物や宇宙などの精密な色鉛筆画を描く松本寛庸(1991-/熊本在住)との出会いは、熊本市現代美術館で2013年に開催した「アール・ブリュット・ジャポネ」展への出品でした。その後、若手現代美術作家の登竜門VOCA展に推薦、作品を収蔵。彼らは家族やまわりの人に支えられながら、ずっと制作をつづけ、海外の美術館でも展示される注目作家になっています。今日も熊本で制作を続ける彼らの日々を、 大量の作品や、成長を見守ってきた人たちの声を交えながら紹介します。
ライフに思いをはせる
国立ハンセン病療養所菊池恵楓園絵画クラブ金陽会の大山清長(1923-2015)、森繁美(1930-2005)、木下今朝義(1915-2014)ら、同クラブメンバーの作品の多くは、一見、 どこにでもあるようなアマチュア高齢者の素朴な絵画ですが、描かれた絵の背景を知ると、そこには、故郷や家族と離れざるを得なかった悲しみや、偏見や差別と切り離せないそれぞれの人生のありようが、静かに伝わってきます。
熊本市現代美術館の学芸員時代から、国内外のハンセン病療養所で制作された美術作品の調査を続け、作品を管理する仕組みを立ち上げ、現在も全国各地で展示を続ける蔵座江美(現ヒューマンライツふくおか理事)氏の協力を得て、作品を通して浮かびあがってくる人間の生き方とは何かを、いま一度考察します。
アーティストが見つめる身体
片山真理(1987-/群馬在住)は、両足ともに脛骨欠損という主幹を成す太い骨がない病気を持って生まれ、9歳のときに両足を離断しました。身体を模った手縫いのオブジェや立体作品、装飾を施した義足を使用したセルフポートレートを制作し、国内外で精力的に活躍しています。彼女はその独特な身体をもった一人の女性の人生を、現代アーティストとしての視点からみつめています。本展では代表作《you’re mine #001》(2014年)から新作まで、作家が辿ってきた生の軌跡を作品を通して展観します。
フランスを代表する現代アーティスト、ソフィ・カル(1953-/フランス在住)の《盲目の人々》は、生まれつき目の不自由な人々に「美のイメージとは何か」と尋ね、その対話を写真と言葉で表現したインスタレーションです。「私が見た美しいもの、それは海です。視野の果てまで広がる海です。」という極めて視覚的なイメージの言葉で始まるこの作品は、私たちは普段何かを「見ている」と思いながら、実は何も「見ていない」ということに気づかせ、「美」とはその人の生き方や考え方の中から、生み出されてくる事を教えてくれます。
アートとともに、未来に向かって
豊橋技術科学大学にあるICD-LAB(Interaction & Communication Design Laboratory)で開発されるのは、自分でゴミを拾うことができず誰かに助けを求める《ゴミ箱ロボット》(2007-)や物語の続きを思い出せず人に尋ねてしまう《Talking-Bones》(2016-)など、思わず私たちが手を貸してしまうような「弱いロボット」。「不便益(あえて手間をかけるシステムのデザイン)」とも言われるこの考え方には、新たなコミュニケーションの在り方のヒントが眠っています。熊本の「自撮りおばあちゃん」として知られる西本喜美子(1928-/熊本在住)は、カメラやパソコンを駆使して、高齢であることを逆手にとったユーモアたっぷりの自虐写真を次々と発表し、全国的に知られています。加齢による機能の衰えや弱まりだけに注目するのではなく、創作活動による人との出会いが、その明るい未来志向を支えているのです。
「躁鬱病」とも呼ばれる双極性障害とうまく付き合いながら、多彩な創作活動を行う坂口恭平 (1978-/熊本在住)は、早寝早起きをして、原稿を書き、絵を描き、料理をつくり、子どもの世話をし、そして携帯電話の番号を公開して死にたい人からの「いのっちの電話」を受け続けています。「自分が自分であるために」何かを作る。あなたにとってそれは何でしょうか?