企画展「ここの出来事」は、ある特定の地域・空間で経験された出来事やある限られた場所にしかないものをめぐって生み出された独自の創作的表現を紹介しています。
八ヶ岳に昇る日の出観測図譜、和洋折衷的画風のキリスト教絵画、満州生活やシベリア抑留の体験画と広島東洋カープの選手肖像画、世界各国の国旗があしらわれた自作戦闘機模型、各種鉄塔の絵図、新潟県観光案内情報の手描きポスター、秋田県阿仁合に住む人々の記憶や文化を記録した手芸作品、自宅の花畑に植えられたペットボトル製花型風車、大分・木浦鉱山の子守奉公と子守唄にまつわる絵や人形などを見ることができます。
【出展者】
永沼 幸子
1923 年福岡県生まれ。退職後、趣味で花を育てる園芸を始める。目や足腰の調子を崩していた2003 年頃、自宅前のプランターにいつのまにか突き立てられているペットボトル風車を偶然見つけたことをきっかけに、ペットボトルを素材に用いて花を模した風車をつくり始めた。以降、素材や塗装法などの研究を重ねながら創作に没頭。完成した色彩豊かな無数の風車は、自前の花畑に植えて披露してきた。本展では、それら自作の花型ペットボトル風車を展示する。
古谷 巌
1926 年広島県生まれ。1941 年、満蒙開拓青少年義勇軍の一員として満州へ渡る。45 年に現地で兵役召集されたが、敗戦によりソ連軍の捕虜となってシベリア・ビースク収容所に連行され、抑留生活を送った。47 年に帰国。定年後に通い始めた絵画教室で、抑留体験を主題に油絵を描き始める。また、球団創設以来の熱狂的カープファンで、歴代選手の肖像画も独自に制作してきた。本展では、シベリア抑留生活を描いた油絵とカープ選手の肖像画を展示する。
高田 周
1926 年兵庫県出身。大阪市立聾学校を卒業後、建具職人として働く。学校では職業訓練が優先された時代のため、読話・発声や読み書きを学ぶ機会を制約され、コミュニケーションに困難を抱えていた。一方、仕事で培った技術を生かし、写真や記憶をたよりに図面もなしで木や紙・日用品を使って、戦闘機や電車などを部品から全て手づくりで精密に再現する模型創作に没頭。妻と死別後、淡路ふくろうの郷へ入居した。2013 年86 歳で逝去。本展では、世界各国の国旗があしらわれた自作の戦闘機や神戸市電の模型を展示する。
伊藤 益郎
1927 年長野県生まれ。農業高校の地学教諭を経て農業に勤しむかたわら、毎朝、八ヶ岳にのぼる日の出の位置と時間を自宅より観測。その記録データは、黄色い広告紙の裏側に自ら描いた八ヶ岳の絵の中へ書き込むとともに、世界各地の地震や災害など地学に関する新聞記事をスクラップするという営みを20 年以上にわたり続けてきた。子供の時より馬の世話に親しみ、馬具の蒐集や研究も独自に行う。本展では、それら八ヶ岳の日の出観測図譜を展示する。
桜水 孝一
1938 年高知県生まれ。少年の頃、自宅近所に教会を開いたアメリカ人牧師との出会いがきっかけで、キリスト教を信仰し始める。病気や戦争により両親とは早くに死別。聖書を拠り所に70 年以上、毎日祈りを捧げてきた。名前の〈桜水〉はペンネームで、聖餐式を意味する「サクラメント」と洗礼の「水」に由来。精神的に調子を崩して20 歳の頃から入院生活を送る中、キリスト教の世界観を主題とする絵を描き始めた。本展では、和洋折衷的に図像が組み合わせられたそれら独自の宗教画を展示する。
米田 寿美
1939 年大分県出身。結婚後、郷里・津久見から宇目に転居。自ら長女に聞かせあやした歌が「宇目の唄げんか」であることを知って以降、近隣の古老に聞き取りを始め、歌詞の採集を行う。お土産の制作・販売や民宿を営むなどしながら調査を続け、95 年には『宇目の唄げんか・子守娘の労働歌』を自費出版。民宿の隣に設えた私設資料館では、子守奉公を主題にした人形や木浦鉱山の歴史資料も公開するなど、独自の伝承活動を続けた。2017 年逝去。本展では、本人歌唱による「宇目の唄げんか」をはじめ、自作の人形や天井画を展示する。
鴻池 朋子
1960 年秋田県生まれ。絵画、彫刻、パフォーマンスなど様々なメディアでサイトスペシフィックに現代の神話(動物が初めて言葉を話した時の物語)を表現、芸術の問い直しを試みている。2014 年からは、秋田県から始まり、青森、奥能登、元ハンセン病療養所・大島青松園、海外はタスマニア、フィンランド等、旅先で出会う人々から個人的な「物語」を聞き取り、それを作家本人が下絵におこし、話者本人がその下絵を元に手芸で制作する《物語るテーブルランナー》というプロジェクトを行ってきた。本展では、その手芸作品や下絵を展示する。
水落 裕子
1960 年新潟県生まれ。関越自動車道越後川口サービスエリアにエリアコンシェルジェとして勤務。1988 年より、業務の一環で毎月1 回SA 上下線に、新潟県全域の観光情報をマーカーでカラフルに手描きした「行事祭だより」を貼り出すという活動を続けてきた。文字の種類によって級数を変えるなど可読性を高めつつ、季節の要素もあしらった情報満載の表現は評判となり、DTP が一般的になった現在も制作は継続中。本展では、それら手描きの観光案内ポスターを展示する。
石月 誠人
1993 年千葉県生まれ新潟県在住。知的障害を伴わない高機能自閉症。幼少期より、身のまわりにある道路・橋・送電用の鉄塔といった建造物や等高線・地名など地理学的な情報を好み、それらを記憶。そのデータをもとに、架空の街の地図を創作したり、多数の鉄塔を描くなどしてきた。4 歳から始めたピアノでは、国内・国外コンクールにて受賞。各地でコンサートを行う。本展では、様々な鉄塔が図鑑のように描かれた絵図を展示する。
【関連イベント】
鴻池朋子 トーク
国内外各地の旅先で出会う人々から聞き取った個人的な「物語」をもとに手芸作品を生み出す《物語るテーブルランナー》プロジェクトを現在も継続して行っている美術家の鴻池朋子さんをお迎えし、ご自身の制作活動についてさまざまにお話いただきます。
日時:2020年1月26日(日)15:00-16:30ごろ
定員:20名程度
参加費:500円
下記のお問合せ先からお申込みください。