視覚がなく、光すら感じたことのない全盲の加藤秀幸は、ある日映画を作ることを決める。加藤は、映画制作におけるさまざまな過程を通して顔や色の実体、2Dで表現することなど、視覚から見た世界を知っていく。また、加藤と共に制作する見えるスタッフも、加藤を通して視覚のない世界を垣間見る。見えない加藤と見えるスタッフ、それぞれが互いの頭の中にある“イメージ”を想像しながら、映画がつくられていく。加藤の監督する短編映画は、近未来の宇宙の小惑星を舞台にした、生まれながらに全盲の男と見える相棒が“ゴースト”と呼ばれる存在を追う SF アクション映画。それはまるで、映画制作の現場で浮かび上がる、見える世界と見えない世界の間に漂う何かとも重なる。
本作の監督は、『インナーヴィジョン』、『マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画』などマジョリティとマイノリティの境界線に焦点を当てた作品を多く手がけてきた佐々木誠。プロデューサーは、障害を“世界をオルタナティブに捉え直す視点”として、『音で観るダンスのワークインプログレス』などのプロジェクトを企画してきた田中みゆき。 また、加藤が監督する劇中映画作品には、『シン・ゴジラ』『バイオハザード』シリーズのプリビズや CG の制作チーム、『ファイナルファンタジーXV』の開発チーム、国内外で活躍する美術家の金氏徹平、ミュージシャンのイトケンなど、幅広い分野のクリエイターたちが協力している他、山寺宏一、石丸博也など豪華声優陣、作家のロバート・ハリスもキャストとして参加。前代未聞の映画制作をめぐる冒険ドキュメンタリーとなっています。
最初から最後まで驚愕の連続。単なる障害者逆差別映画でも、視聴覚の実験映画でもない。 極端なまでのリアルがむせ返るほどのリアリティーショー。
——菊地成孔(音楽家/文筆家/映画批評)
盲目の人たちが生きているのは闇の世界ではない。
光はないかもしれないけど、そこは情報にあふれた豊かな世界なのだ。
僕たちが知っているのとは全く違った世界、今回のような映画つくりを通して、
そんな別の世界が出会い刺激しあったら何を生み出してゆくだろう?
楽しみでしょうがない!
——しりあがり寿(漫画家)
これは希望を与えてくれる映画だ。とはいえ、万人にではない。なにかしら「自分には絶対にわからないから無理だ」と思っているものを抱えている者にとって、ダイレクトに刺さることだろう。
——齋藤陽道(写真家)
日本語話者である私(たち)はふつう、日本語が通じない人を「何かが欠けた人」だとは思わない。単に別の言語を使う人として、経験上、ある程度想像できる。しかし、同じ視覚を持たない人(視覚障害者)については、つい「視覚の欠けている人」と思いがちである。それを単に、視覚を偏重して生きている私(たち)とは別の感覚を持つ人、として想像するだけで、こんなにも世界が広がる。共感できない世界こそおもしろい。
——能町みね子(エッセイスト/漫画家)
【プロフィール】
監督:佐々木 誠
フリーディレクターとして主に CM、VP、TV 番組などを演出。
2006 年、初監督ドキュメンタリー映画『フラグメント』がロードショー公開され、アメリカ、ドイツなど海外上映も含め3年以上のロングランとなる。翌年、オムニバス映画『裸 over8』の一編として『マイノリティとセックスに関する2、3の事例』(2007 年)が公開し、単体作品としても海外を含む各地で上映。その後、『インナーヴィジョン』(2013 年)、『マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画』(2015 年)、『記憶との対話』(2016 年)を発表。各地で公開、上映される。
2018 年には『光を、観る』がカンヌライオンズに出品、『熱海の路地の子』が、オムニバス映画『プレイルーム』の一編として国内外で公開。
他に、『バイオハザード5 ビハインド・ザ・シーン』(2009 年)、フジテレビ NONFIX『バリアフリーコミュニケーション 僕たちはセックスしないの!?できないの!?』(2014 年)などを演出、紀里谷和明監督『GOEMON』(2008 年)、夏帆主演『パズル』(2014 年)など、多くの劇映画の脚本に関わる。
また南カリフォルニア大学、東京大学、慶應大学などでの上映・講演、和田誠やロバート・ハリスらと定期的に映画についてのトークイベントなども行っている。マジョリティとマイノリティの境界線に焦点を当てた作品を多く手がけており、ドキュメンタリーという手法を用いながら、マイノリティの目線から社会のあり方そのものへの問題提起を行ってきた。
ウェブサイト http://sasaki-makoto.com/
主演:加藤 秀幸
1975 年東京都生まれ、東京都在住。先天性全盲。
肩書き:システムエンジニア、ミュージシャン(E-bass guitar)
バンド「celcle」所属。時々ちょっとだけ作曲。
映画『インナーヴィジョン』出演。インターナショナルスクール特別非常勤講師。
好きなことは、料理、ものづくり、頭が痛くなるほど細かい作業(プラモ作成など)。
プロデューサー:田中みゆき
キュレーターとして展覧会やパフォーマンスなどの企画、書籍の構成や編集に携わる。日常に潜む創造性と、それを介して生まれるコミュニケーションを軸に活動を展開する。2009 年『骨』展、2010 年『これも自分と認めざるをえない』展(いずれも 21_21 DESIGN SIGHT)を機に人のあり方を示唆するものとしてテクノロジーに関心を持つ。その後、山口情報芸術センター[YCAM]にて YCAM10 周年記念祭『LIFE by MEDIA これからの生き方/暮らし方の提案』展、『YCAMDOMMUNE』(共に 2013 年)などを企画。日本科学未来館にて『義足のファッションショー』や『“subliminal wave of light” otto & orabu×高木正勝 LIVE at Miraikan』(共に 2014 年)を担当。その後も『国際交流基金 障害×パフォーミングアーツ特集 “dialogue without vision”』(2016 年、KAAT神奈川芸術劇場)、『障害(仮)』展の記録冊子の構成・編集(2016 年、鞆の津ミュージアム)、『大いなる日常』展(2017 年、ボーダレス・アートミュージアム NO-MA)、『音で観るダンスのワークインプログレス』(2017 年、 KAAT 神奈川芸術劇場)など、障害に関するプロジェクトを継続している。障害を「世界をオルタナティブに捉え直す視点」として、カテゴリーにとらわれずプロジェクトを企画する。
ウェブサイト http://miyukitanaka.com/