自身の母・男代(おだい)の介護生活の中でアート作品を生み出し続けてきた美術家・折元立身が、母を亡くしてから制作を開始した新作《ポストカード・ドローイング》シリーズを初公開します。折元は2017年5月、23年間にわたり介護してきた自身の母を亡くし、それから旅や仕事で国内外各地へ出向いた際、現地で買い求めた絵はがきにそこで見聞きしたことをドローイングとともに綴り、滞在先から亡き母へ宛てて投函するという実践を続けてきました。本展では、2018年のロンドンおよびベルリン滞在時に描かれ、母と暮らした自宅へ郵送された220枚のポストカードのうち、不備なく届いた213枚の中から選ばれた100枚を展示しています。
折元はこれまで、認知症であった母との日常的な介護生活をユーモラスに映像化する《アート ママ》シリーズや、パンを顔面にくくりつけた異形の姿で街に出るパフォーマンス《パン人間》、豚や鶏といった家畜と交歓する《アニマルアート》などでみられるように、演劇的な手法を用いながら、「こちら」と「あちら」の境界を見つめる様々な作品を発表しています。食事や排泄の介助のようにまわりから見えなくなっている厳しい現実の一面や、「普通/標準」から逸脱した存在を公共空間に出現させるという仕方で、自分とは異なるものたちの生への想像力を喚起し、「私たち」の輪郭を問い続けてきました。
《ポストカード・ドローイング》は、折元から亡き母に差し出された返信が来ることのない絵はがきです。「俺の中では、おばあちゃん死んでないからね」と折元が言うように、それは、まるでこの世に生きている母と言葉を交わすかのような身ぶりから生まれたものにほかなりません。母への愛や惜別の想いを膨大な時間をかけて態度で示すという意味で、代表作《アートママ》の現在形とも言うべき本作をお楽しみいただけます。