みずのき美術館(京都)、鞆の津ミュージアム(広島)、はじまりの美術館(福島)は、2016年度より、館の運営母体となる障害者支援施設をはじめ、各地域で生活されている障害のある方や人知れず表現活動を続ける方によって生み出された作品や創作物の調査を行い、デジタル・アーカイブとして記録・保存・公開するプロジェクトに取り組んできました。これまでも三者三様の「アーカイブ」を探りながら合同でプロジェクトを進めてきましたが、よりオープンな議論ができる場として、ゲストを迎えた座談会を開催します。
ゲストは、医学書院で「ケアをひらく」シリーズを編集する白石正明さん。30冊を超える本シリーズは、あらゆる領域で「ケア」に向き合ってきた人たちの技法や知を書物という形で編み上げ、注目を集めています。気づかずに見すごしたり、いつのまにか忘れてしまうかもしれない、かすかな「徴(しるし)」に耳をすましてみる。それはあるものをなかったことにしないための一つの方法かもしれません。
本プロジェクトの設計者である須之内元洋さんをモデレーターに、「生きること」の多様さや複雑さを記録し伝えていくための方法や可能性について、白石さんとともに考えていきます。
【ゲストスピーカー】
白石正明
医学書院「ケアをひらく」シリーズ編集者 1958年東京都生まれ。大学卒業後、中央法規出版に勤めたのち、1996年に医学書院に入社。多様な視点からケアの世界を伝える「シリーズ ケアをひらく」の編集を担当するほか、雑誌『精神看護』や看護実務書なども手がける。2000年から始まった同シリーズは、現在までに計34冊を刊行。
【モデレーター】
須之内元洋
本事業デジタル・アーカイブ設計者 1977年生まれ。札幌市立大学デザイン学部講師。ソニー株式会社、サイボウズ・ラボ株式会社勤務を経て現職。メディア環境学、情報科学、音の環境学の分野で研究を行うほか、デジタル・アーカイブをはじめとした各種デジタルメディアの設計・開発、メディア・アートの実践を行う。
日本財団アーカイブ支援プロジェクト
障害者支援施設で日々生み出されるものを、記録し保存するため、3つの美術館が取り組んできたプロジェクト。(「全国の作品調査に向けたアール・ブリュット美術館におけるアーカイブ構築」事業/監修・設計=須之内元洋)
みずのき美術館 「60年の歴史と膨大な作品」
日本画家の故・西垣籌一が指導に関わったことで知られる「みずのき」の絵画活動。そこで生まれた膨大な数の作品をアーカイブ。「みずのき」が歩んだ約60年を時系列でまとめ、そこから作家や作品を探すこともできる。2016年には収蔵庫も完備。(2014-)
鞆の津ミュージアム 「障害の有無を問わず表現を記録」
社会福祉法人創樹会を利用する方々が生み出す作品や、作者の日常と不可分に結びついた創作物など多様な表現を調査し保存。創作環境や生活の様子についての聞き取りもあわせて行い、表現活動に多面的な光をあてる。(2017-)
はじまりの美術館 「関係性から生まれたものを記録」
社会福祉法人安積愛育園を利用する方の創作活動を支援するプロジェクト「unico(ウーニコ)」から生まれた作品、約650点をアーカイブ。今年度は福島県内で創作活動を行う障害のある方に焦点をあてて調査・アーカイブ中。(2017-)